岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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権力者の不正と隠蔽を暴いていく、迫真のドキュメンタリー

2021年12月06日

コレクティブ 国家の嘘

©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019

【出演】カタリン・トロンタン、カメリア・ロイウ、テディ・ウルスレァヌ、ヴラド・ヴォイクレスク ほか
【監督・撮影】アレクサンダー・ナナウ

フィクションと見紛うばかりのリアリティ

イギリスの歴史家ジョン=アントン(1834-1902)の言葉「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」。

ルーマニアは、バルカン諸国では唯一のラテン系民族。1989年の東欧革命では唯一流血の惨事となり、独裁者チャウシェスクが処刑された歴史を持つ。しかし革命後も共産主義時代のエリート層が権力を握り続け、汚職や不正が後を絶たない国でもある。

本作はそんなさなかの2015年10月30日、首都ブカレストのクラブ「コレクティブ」で起こった大規模な火災をきっかけに、政府と一体となった権力者の数々の不正と隠蔽を暴いていく迫真のドキュメンタリーである。

直接の火災では27名が死亡したが、その後運び込まれた病院で感染症により次々と死亡、最終的には64名の犠牲者となってしまった。

これを不審に思い調査を始めたのは、スポーツ紙「ガゼタ」の編集長トロンタンだ。一般紙でなくスポーツ紙というところが凄い。権力の監視・追及には媒体は関係なく、あるのはジャーナリズム魂のみだ。

そしてカメラは、まるでもう一人の記者のごとく、彼らの取材活動の核心の部分にまで入り込んでいく。それはフィクションと見紛うばかりのリアリティで、あたかも編集会議に参加しているようだ。

さらに映画は、事実を経過通りの順番で客観的に示していく。だからこそ権力者の嘘やごまかしや隠蔽が、白日の下にさらされていく過程がよくわかるのだ。

後半の主役は、真相究明と事態収拾のために任命されたヴォイクレスク新保健相だ。ここでもカメラは、会議の様子や判断までの一部始終を捉えていく。本物に勝るものはないという緊迫した場面が続く。

激しいデモも行われ国家が変わるかと思われたが、ふたを開けてみれば選挙の結果はいつもと同じ。若者の投票率は圧倒的に低く権力は持続していく。なお念のために言っておくが、これは日本のことではないので、悪しからず。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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