岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ありのままを映した、日本文化の凄みがわかる映画

2021年11月30日

明日をへぐる

©SIGLO

【監督】今井友樹

高齢者が屈託なく元気に働く姿。幸せとは何ぞや?

高知県の中央北部、四国山地の山間部にある旧吾北村(現・いの町吾北地区)は、豊かな自然に恵まれた人口約2,200人余りの中山間地域である。村を流れる仁淀川は、「水質が最も良好な河川」(国土交通省選定)に3年連続8回選出という、全国屈指の奇跡の清流"仁淀ブルー"として知られている。

『明日をへぐる』は、その旧吾北村で和紙の原料となる"楮(こうぞ)"を栽培し、切り取られた樹木を昔からの方法で蒸し、特殊な包丁で表皮部分をこそぎ取って(=へぐる)、繊維だけを残していく作業を見せてくれる。

昔は農家の貴重な現金収入として、村中こぞって和紙の原料づくりに携わってきたが、大企業による大量生産大量消費ができる洋紙の普及と、何より生活様式の変化により、全く割の合わない商売になってきた。

新自由主義経済の利益至上主義からしたら、真っ先にリストラされる部門になると思うが、平均年齢80歳、中でも90歳代の高齢者が屈託なく元気に働いている姿をみると、幸せとは何ぞやとつくづく思う。

和紙作りの工程の中で手漉(てすき)分野は、現在まで5名の方が人間国宝に指定され、2014年には「日本の手漉和紙技術」としてユネスコ無形文化遺産に登録(石州半紙、本美濃紙、細川紙)された。

しかしながらこれを支えるのは、地方の無名の高齢者たちなのだ。彼ら彼女らの地道な仕事があってこその日本が誇る文化遺産なのである。

ただ今井友樹監督は、この映画の中でメッセージを声高には出してない。ありのままを映し取って編集しただけであり、結論めいたものは一切ない。さらに上映時間は1時間13分というコンパクさで、観客が覚悟を決めて見なくていい。それでいてダイジェスト版にはなっておらず、様々なことを読み取ることができる。

映画は、紙漉き工程や土佐和紙を使った版画、古文書の修復過程まで見せてくれる。日本文化の凄みがわかる映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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