岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

情報化社会の暗部に対峙した時の選択

2021年11月15日

由宇子の天秤

©️2020 映画工房春組 合同会社

【出演】瀧内公美、河合優実、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、川瀬陽太、丘みつ子、光石研
【監督・脚本・編集】春本雄二郎

委ねられた解釈が微妙に揺らぐ危うさは現代社会そのもの

拙いリコーダーの演奏が聴こえる。冬の河原の水辺付近に演奏者の男がいる。それを見つめる女とカメラを構えた男。何かの撮影とわかる。

『由宇子の天秤』は、テレビのドキュメンタリー制作会社でディレクターを務める由宇子(瀧内公美)の視点で、情報化社会が内包する幾つもの矛盾や問題に触れる、あるいは晒されてしまう人たちを描いていく。

由宇子たちが取り組んでいるのは、3年前に起きた女子高生のいじめ自殺事件で、冒頭のリコーダーを演奏する男が、女子高生の父・長谷部(松浦祐也)である。

真実を追求するジャーナリストとしての信念のもと、その取材の対象は必然的に広がっていく。

自殺した女子高生との不適切な関係を疑われ、同じく自ら命を絶った教師・矢野の家族に迫るが、残された家族、母(丘みつこ)と姉(和田美沙)は、世間からは加害者扱いされ、理不尽な攻撃に晒され、隠遁生活を強要されることになっていた。

誰が被害者で誰が加害者なのか?

由宇子には、父(光石研)の経営する塾を手伝うもうひとつの顔がある。個人経営の塾の経営は順風とは言えないものの、そこに集まる生徒たちや由宇子親子の関係性には、事務的ではない、家庭的な良好な雰囲気が伺える。

生徒のひとり新顔の萌(河合優実)の様子を気遣う内、由宇子は次第に深入りすることになる。

映画はひとつの真実に向き合いながらも、その視点を変えることで、新たに見えて来る別のものに肉薄する。この信念はジャーナリストとしてのあるべき姿に見えるが、同時にそこにはエゴも存在する。綺麗事の裏側には同じダークサイドが存在する。この揺れ動き続ける、あるいはズレ続ける物語は、重厚でスリリングな展開をみせる。

監督の春本雄二郎は長編2作目の新鋭だが、自らのオリジナル脚本をもとに、強いメッセージ性を持つ作品に仕上げた力量に驚く。観るものに委ねる方法は、半ば暴力的に胃の腑に突き刺さる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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