岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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サンカヨウの花びらのように透明感溢れる秀作

2022年01月19日

かそけきサンカヨウ

©2020 映画「かそけきサンカヨウ」製作委員会

【出演】志田彩良/井浦 新、鈴鹿央士、中井友望、鎌田らい樹、遠藤雄斗、石川恋、鈴木咲、古屋隆太、芹澤興人、海沼未羽、鷺坂陽菜、和宥、辻凪子、佐藤凛月、菊池亜希子/梅沢昌代、西田尚美/石田ひかり
【監督】今泉力哉

登場人物の感情の揺れを的確に描く演出手腕

「あの頃。」、「街の上で」に続く今泉力哉監督の今年3本目の公開作は、窪美澄が2014年に発表した短編集の中の一篇「かそけきサンカヨウ」の映画化。

沖田修一監督の「子供はわかってあげない」は、女子高生の主人公が幼少期に家を出た実の父親を訪ねる話だったが、今泉監督の「かそけきサンカヨウ」には、ヒロイン(同じく女子高生)が幼少期に自分を置いて家を出た実の母親を訪ねるシーンがある。似たようなシチュエーションだが、監督の個性の違いにより作品の味わいが大きく異なっているのが面白い。ファニーな登場人物をオフビートなタッチで描く沖田監督に対し、今泉監督は会話を含め何より自然さを大切にしているようだ。

私は今泉作品すべてに共通する自然な空気感が好きだ。そして、登場人物が日常生活の中で垣間見せる感情の揺れを的確に掬い上げる手腕に、いつも感心させられる。

ヒロイン陽の、父親の再婚相手(義母)やその幼い連れ子(義妹)との関係、自分を置いて家を出た実母への複雑な感情、そして同級生の男子へのほのかな恋心を繊細に描いた本作は、清々しい青春映画であるとともに、日本映画のホームドラマの伝統を継承する秀作でもある。

陽を演じる志田彩良の魅力も特筆に値する、サンカヨウの花びらのような透明感溢れる素敵な映画である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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