岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

時間がたてばたつほど凄みを感じる、稀有な傑作

2021年12月21日

ドライブ・マイ・カー

©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

【出演】西島秀俊、三浦透子、霧島れいか/岡田将生
【監督】濱口竜介

監督の確かな演出力、俳優の卓越した演技力、傑出したシナリオ

本作は2時間59分という長尺であるにも関わらず、物語の淀みも中だるみも一切なく、最後まで映画に没頭させてくれる稀有な傑作だ。

完成度の高さは、情緒的にも抒情的にもならず対象を冷静に見つめていく監督の確かな演出力、抑揚を意識しないセリフ回しと抑制された芝居で物語を紡いでいく俳優の卓越した演技力、そしてカンヌ国際映画祭で日本映画史上初の脚本賞を受賞した傑出したシナリオにあることは間違いない。

物語の全体は、シナリオの黄金率である1:2:1の三幕構成(設定・展開・解決)となっている。

家福(西島秀俊)と音(霧島れいか)の不可思議な夫婦関係を描く第一幕。音の急死の2年後、広島の演劇祭で「ワーニャ伯父さん」を上演するためのリハーサルを繰り返す第二幕。そして家福の専属ドライバーとなったみさき(三浦透子)との関係性を深めていく第三幕。これに家福のある種の部分を投影しているような、俳優の高槻(岡田将生)が絡むことにより物語は複層化してくる。

さらにチェーホフの「ワーニャ伯父さん」のセリフがこの物語に深く介入してくるのだが、それはカセットテープの声であったり、色々な言語の役者の発声であったり声に出さない手話まである。それに加えて音が寝物語にシェラザードのように語る、ある女子高生の侵入物語。幾重にも重なるエピソードが終盤に向かって集約されていく構成力は、驚嘆するばかりだ。

映画から読み取れるメッセージはいくつもある。

リアルな関係性の中で、いま発している言葉が真実なのかどうか?固定化されている演劇のセリフは、はたして字義通りなのか?むしろセリフの中にこそ真実があるのではないか?

初見から2か月近くたった今でも、いや今だからこそ映画を反芻し咀嚼できるのかもしれない。

いい映画は時間がたてばたつほどその凄みを感じられるものだが、『ドライブ・マイ・カー』は、まさにそんな映画なのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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