岐阜新聞 映画部

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自分の信じてきた正しさとは何か?人間ドラマの傑作

2021年10月13日

空白

©2021「空白」製作委員会

【出演】古田新太、松坂桃李、田畑智子、伊東蒼、藤原季節、片岡礼子、趣里、寺島しのぶ
【監督・脚本】吉田恵輔

人それぞれの本質は、自分だってわからない

突然の交通事故で娘・花音(伊東蒼)を亡くしてしまった蒲郡の漁師・添田(古田新太)。間接的原因は、スーパーの店長・青柳(松坂桃李)に万引きを疑われ逃げた結果の末だった。

この不幸な事故を発端に、法的には何の責任も無い青柳をいたぶり続け決して許さないモンスターの添田と、追い詰められ精神が崩壊していく青柳。

『空白』は、性格の強弱はありながらも、絶妙なコミュニケーションバランスの中で暮らしてきた人々が、予期せぬ出来事に遭遇した際、自分の信じてきた正しさとどう折り合いを付け、どう消化していったかを描いた人間ドラマの傑作である。

人それぞれの本質は、他人からはもちろん、自分自身だってよくわからないものだ。

傍若無人でいつも支配的な荒ぶれ男・添田。娘の非業の死に対し、その無念を晴らすためにとった彼の行動は決して褒められたものではないが、多くの声なき被害者の代弁者になっているのも確かだ。

一方、非難されるべき行動はとってないにも関わらず、結果に関して謝罪を半ば強要される青柳。都合よく切り取られ編集された報道は、彼を悪者に仕立てていく。

そしてマスコミやSNSなどの野次馬たちは、人の痛みに共感するふりをしながら、実は「人の不幸は蜜の味」という感覚でほくそ笑んでいるのだ。

親切で世話焼きおばさんの麻子(寺島しのぶ)に、何故いらだちを覚えるのか?それは、彼女の行動がおためごかしに見えてしまうからだ。上から目線で、「親切にしている自分」に酔っているとしか思えないからだ。

吉田監督の描く人間像はとてもエグいが、決して突き放しはしていない。

頑なな心を開かせる手段はある。それは取り繕った言葉ではなく、心から出た言葉だ。中山緑(片岡礼子)の謝罪の言葉に心を動かされないものなどいないだろう。青柳が売っていた弁当を褒める青年の言葉に涙しないものはいないだろう。

素晴らしい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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