岐阜新聞映画部映画館で見つけた作品キネマの神様 B! 志村けんさんと映画の神様に捧げる物語 2021年09月28日 キネマの神様 ©2021「キネマの神様」製作委員会 【出演】沢田研二、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎/北川景子、寺島しのぶ、小林稔侍、宮本信子 【監督】山田洋次 2本の映画を観ているような錯覚 歩(寺島しのぶ)のもと、また借金取りがやって来る。ギャンブル漬けの父親ゴウ(沢田研二)の金にまつわる不始末には懲り懲りしている。いつも父に甘いばかりの母の淑子(宮本信子)は、例によって埒があかないが、今度ばかりはと、母娘は共闘しゴウの年金が振り込まれる通帳の差押さえを決行する。 若き日の円山ゴウ(菅田将暉)には夢があった。 映画の黄金期、活気溢れる撮影所。助監督のゴウは現場、現場を走り回る忙しい毎日を送っていた。名だたる名監督たちの撮影を直に体験し、名優たちの演技をかぶりつきで見るという満たされた日々。その緊張感を解きほぐしてくれるのは、同僚で同志の映写技師のテラシン(野田洋次郎)と、撮影所近くの食堂の娘・淑子(永野芽郁)だった。 確たるジャンルではないが、映画には "劇中劇" ならぬ ”映画中映画" という構成をとった作品が存在する。『キネマの神様』は映画の現場に生きた人たちを描いた映画であって、映画が入子の構造になっているわけではない回想の物語なのだが…。 動き回るスタッフたちや個性溢れる監督たちも、紋切り型に切り取られた断片に過ぎない割には、昔の撮影所の活気もよく描けていて、働く人の生き様も感じ取れるほどだ。 スター女優・園子(北川景子)にさそわれて行くドライブの休日も、青春映画のような瑞々しさがある。 しかし、この回想の部分が、現在のゴウの世捨人のようなだらしのない落ちぶれぶりは何なのか? という疑問を呼び、アンバランスさを浮き彫りにする。 ゴウは初監督作品『キネマの神様』の撮影初日に転落事故を起し、大怪我を負った上に、作品の製作は頓挫することになってしまう。これは唐突に起こったアクシデントではないのか? そして、半世紀後の2020年。夫婦となったゴウと淑子には、この間に何があったのか? これを想像し難くさせているのは、ひとつの躓きのみで、夢を諦めてしまった男の実像が見えないことだ。 終盤、歩の息子でひきこもり気味の勇太(前田旺志郎)の手を借りて、夢を引き戻せたとしても、回想のはずの過去が別の映画のように見えてしまう誤算の清算にはならない。 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 88% 観たい! (7)検討する (1) 語り手:覗き見猫映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。 2024年09月26日 / どら平太 日本映画黄金時代を彷彿とさせる盛りだくさんの時代劇 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 助けを求める人はもはや敵ではなく、ただの人間だ 2024年09月26日 / 潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断 海の男たちが下す決断を描くヒューマンドラマ more 2019年01月16日 / 高田世界館(新潟県) 明治44年の建築当時のまま…登録有形文化財の映画館 2021年07月28日 / 【思い出の映画館】上野東宝劇場/上野宝塚劇場(東京都) 文人墨客が愛した上野の森にあった東宝直営館 2019年08月21日 / 松竹座(香川県) 名作『二十四の瞳』の舞台で、映画に浸る一日を過ごす more
2本の映画を観ているような錯覚
歩(寺島しのぶ)のもと、また借金取りがやって来る。ギャンブル漬けの父親ゴウ(沢田研二)の金にまつわる不始末には懲り懲りしている。いつも父に甘いばかりの母の淑子(宮本信子)は、例によって埒があかないが、今度ばかりはと、母娘は共闘しゴウの年金が振り込まれる通帳の差押さえを決行する。
若き日の円山ゴウ(菅田将暉)には夢があった。
映画の黄金期、活気溢れる撮影所。助監督のゴウは現場、現場を走り回る忙しい毎日を送っていた。名だたる名監督たちの撮影を直に体験し、名優たちの演技をかぶりつきで見るという満たされた日々。その緊張感を解きほぐしてくれるのは、同僚で同志の映写技師のテラシン(野田洋次郎)と、撮影所近くの食堂の娘・淑子(永野芽郁)だった。
確たるジャンルではないが、映画には "劇中劇" ならぬ ”映画中映画" という構成をとった作品が存在する。『キネマの神様』は映画の現場に生きた人たちを描いた映画であって、映画が入子の構造になっているわけではない回想の物語なのだが…。
動き回るスタッフたちや個性溢れる監督たちも、紋切り型に切り取られた断片に過ぎない割には、昔の撮影所の活気もよく描けていて、働く人の生き様も感じ取れるほどだ。
スター女優・園子(北川景子)にさそわれて行くドライブの休日も、青春映画のような瑞々しさがある。
しかし、この回想の部分が、現在のゴウの世捨人のようなだらしのない落ちぶれぶりは何なのか? という疑問を呼び、アンバランスさを浮き彫りにする。
ゴウは初監督作品『キネマの神様』の撮影初日に転落事故を起し、大怪我を負った上に、作品の製作は頓挫することになってしまう。これは唐突に起こったアクシデントではないのか?
そして、半世紀後の2020年。夫婦となったゴウと淑子には、この間に何があったのか? これを想像し難くさせているのは、ひとつの躓きのみで、夢を諦めてしまった男の実像が見えないことだ。
終盤、歩の息子でひきこもり気味の勇太(前田旺志郎)の手を借りて、夢を引き戻せたとしても、回想のはずの過去が別の映画のように見えてしまう誤算の清算にはならない。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。