岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ほろ苦いひと夏の思い出

2021年09月20日

Summer of 85

© 2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINÉMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES

【出演】フェリックス・ルフェーヴル、バンジャマン・ヴォワザン、ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ、メルヴィル・プポー
【監督・脚本】フランソワ・オゾン

原作は英国の小説「おれの墓で踊れ」

監督のフランソワ・オゾンは前作の「グレース・オブ・ゴッド告発の時」がカトリック教会の少年虐待の過去を暴く社会派の力作で、その実力を再評価させた。本作は邦訳もあるエイダン・チェンバース原作「おれの墓で踊れ」の映画化。作者はイギリスの児童文学作家で原著の出版は1982年。ヤングアダルト作品でゲイを扱った先駆けであるらしい。舞台を1985年のフランスの田舎町としたことでノスタルジックな風味となり、自伝的要素も加味したのか、肩の力が抜けたような軽快感を感じさせ、後味も悪くない。

舞台となるのはモネの「エトルタの海岸」で有名なノルマンディー地方エトルタの辺り。町の名は明らかにされないが、白亜の絶壁が続く風光明媚な土地だ。高校生のひと夏の経験が綴られるが、誰もが通り抜けたようなほろ苦い味わいがある。ある経緯で主人公は女装せざるを得ない立場に追い込まれるが、現代の観客は首をかしげるかもしれない。LGBTが公になるずっと前の話なのだ。いくつかユーモア溢れるシーンもあり、監督は決して深刻な内容にしようとはしていない。しかし一途な主人公の心境や両親や教師の暖かいまなざしは国境や時代を越えて普遍的な心情となり、観客の心をとらえる。

地理的にはもう少し南下するが、港町サンマロを舞台としたエリック・ロメールの「浜辺のポーリーヌ」や「夏物語」を連想してしまう。ロメールは少女の一瞬の輝きを描写するのが得意だったが、ゲイのオゾン監督は当然ながら少年への思い入れとなるのだろう。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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