岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

自閉症の人たちが見えている世界に少しでも近寄るための映画

2021年08月31日

僕が跳びはねる理由

©2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute

【監督】ジェリー・ロスウェル

「知ったかぶり」は禁物。「理解した」なんて、おこがましい

私が主に自閉スペクトラム症(発達障害など)の人の就労支援を始めるにあたって、最初に読んだ本が「自閉症の僕が跳びはねる理由」である。当時13歳の東田直樹さんが書いた著書は、「普通」とか「個性」について当事者として語られ、今でも支援の指針となっている。

本作は、世界中の多種多様な自閉症当事者の日常や行動、物事の捉え方を、映像として赤裸々に映しだしていく。

私は、東田さんの文章にプラスして、映画が得意とする視覚や聴覚で補うことで、自閉症の人たちが見えている世界に少しでも近寄ることが出来るかもしれないと、勉強半分期待して観た。

まず特徴的なのは、物事を捉えるのに「部分」から飛び込んでくること。毛虫だったら、身を寄せ合うときの音からだったり、トランポリンだったら跳びはねるときの軋む音からだ。「雨が降っている」ことを理解する迄のプロセスも独特である。

コミュニケーションの取り方もユニークだ。アメリカのアーリントンに暮らすベンとエマは、幼馴染の仲良しだが言語的コミュニケ―ションはほとんどない。ふたりは、アルファベットを文字盤に書くことで意思疎通を図っている。そこには何の問題もない。

インドの少女アムリットは、ほとんど口を利かないが、見たこと感じたことは、ひたすら絵に描き上げる。彼女にとっては、これが「普通」なのだ。

その一方、シエラレオネでは”悪魔の病気”とされ、本人だけでなくその親まで責められる現実が描写される。辛い現実だ。

映画では東田さんの分身のような少年が、ナビゲーターのような存在で登場する。荒野であったり街中であったり、東田さんの言葉と共に彼は歩き続ける。私の中でイメージは無限大に広がる。

映画を観て思う。「知ったかぶり」は禁物。「理解した」なんて、おこがましいのだ。自閉症は100人100様、正解はないと思った方がいい。

みんな観て、知ってもらいたい映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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