岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

極めて単純なプロットなれど、色々なことを想起させる深遠なる映画

2021年08月11日

ライトハウス

© 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

【出演】ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン
【監督・脚本】ロバート・エガース

現実と幻想が曖昧になってきて理性を失った人間は、どうなるか?

本作のプロットは極めて単純である。

「孤島に取り残された男2人が、疑心暗鬼の末、狂って死んだ」。

画面のアスペクト比は、"1.19:1"と正方形に近く、おまけにモノクロームのフィルム撮影だ。

『ライトハウス』は、派手なCGと多くの出演者・わかりやすいストーリーだが中身がスカスカのハリウッド娯楽大作とは真反対。出演者は薄汚れた男2人(ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー)のみで、物語の場所は孤島の中だけ、画面には余白もなく色もついてない、説明セリフも一切なく、娯楽要素ゼロの映画だ。嵐のため誰も寄せ付けない設定で、ボーっと観てる観客も寄せ付けない。

私はこの緊張感あふれる挑戦的な映画に対し、スクリーンの中で起こる一挙一動も見逃さぬよう頭をフル回転させながら心して観た。

海や灯台には詳しいが、決して自分の領分には立ち入らせない傍若無人な老灯台守。力仕事ばかり押し付けられ、カモメにブチギレたり人魚とセックスする若者。

この2人の関係性は、閉じ込められた期間が長くなってきて酒浸りの生活が続くにつれ狂気を帯びてくる。現実と幻想が曖昧になってきて理性を失ってしまう。

過酷で絶望的な環境の中では、人間の悪魔の部分が心を支配する。戦争中に起こる普段では考えられない蛮行と共通するのだ。

島の丘に屹立するライトハウスは男根の象徴である。その男のシンボルを守るものと奪うもの。老人は既得権益にしがみつき、若者は殺してでもそれを奪い取る。人間の業として、いや生存競争の結果としての帰結だ。ここでも人間の生きざまに迫っていく。

ではカモメは何の象徴だろう?

ギリシャ神話で人類に火を与えたプロメテウスに対して、怒り狂ったゼウスは鷲に内臓をついばませるという責め苦を与える。映画の最後、若者がカモメに内臓を食われるのはこれかもしれない。

色々なことを想起させる素晴らしい映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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