岐阜新聞 映画部

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ほのぼのとしたコメディであり、観終わったら親孝行したくなる

2021年08月12日

83歳のやさしいスパイ

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【出演】セルヒオ・チャミー ロムロ・エイトケン
【監督・脚本】マイテ・アルベルディ

潜入捜査官としては、ジェームズ・ボンドなみの大成功だ

スパイ行為の一種に潜入調査がある。まずは敵の組織に身元を偽装して密かに潜入、信頼関係を築きつつ有用な情報を探知・収集したり、時にはあえて暴力行為を扇動して、当局による組織壊滅の手助けをする。『007』や『ミッション・インポッシブル』などでもおなじみだ。

『83歳のやさしいスパイ』の舞台はチリの首都サンチアゴ郊外の特養ホーム。ある探偵事務所の求人情報に応募した83歳のセルヒオが、調査員として老人ホームに潜入し、依頼主の母親の虐待の疑いを調査する。さながらスパイ映画もどきのドキュメンタリー映画だ。

しかしこの映画にはスリリングでアンタッチャブルな要素は限りなくゼロ。ほのぼのとしたコメディであり、老人の孤独と淋しさを垣間見せ、映画を観終わったら親孝行したくなるドキュメンタリーである。

チリ人の平均寿命は80.33歳(2021年調)で南米ではトップの長寿国だ。一方でピノチェット政権下に導入された民営方式による年金制度は、運用成果に応じた年金受け取りのため受給額は低く抑えられ、平均的年金生活者はその日暮らしを余儀なくされている。

老人ホームに入れる人は限られるわけで、高齢者の求人に応募が殺到するのは必然なのだというチリの事情もわかってくる。

スマホの操作もおぼつかない人の顔も覚えられないセルヒオであるが、その人柄から瞬く間に老人ホームの仲間に溶け込んでいく。告白までされてモテモテ。潜入捜査官としてジェームズ・ボンドなみの大成功である。

ほどなくして依頼者の母親である入居者に辿り着くが、虐待を受けてはおらず孤独であることがわかってくる。

映画は当初の目的の「依頼者の母の虐待の証拠と犯人捜し」から「老人ホーム入居者の人生模様」に代わってくる。撮り始めたら興味の中心が移ったようで、アルベルディ監督の柔軟性に驚くと共に、チャーミングな老人たちからは元気をもらえるのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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