岐阜新聞 映画部

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ジャポニズムの発端として世界を熱狂させた、葛飾北斎の生涯

2021年07月29日

HOKUSAI

©2020 HOKUSAI MOVIE

【出演】柳楽優弥、田中泯、阿部寛、永山瑛太、玉木宏、青木崇高、瀧本美織、津田寛治、辻󠄀本祐樹、浦上晟周、城桧吏、芋生悠、河原れん
【監督】橋本一

馬鹿にされ屈辱を味わい何度挫折しようとも、筆だけは置かない

江戸時代に花開いた庶民文化は、上流階級の劣化型にすぎなかった欧米の庶民文化とは違い、上流層とは全く異なる独自の文化を築き上げた。

それは屋台を含む外食文化であり、歌舞伎や落語などのエンタメであり、浮世絵や絵草子をはじめとした出版文化であった。

中でも白黒の明快なコントラストに鮮やかな色彩をまとった浮世絵は、当時の最先端の風俗や話題を生き生きと描き、さらに蕎麦一杯と同じという安価で販売され、庶民の楽しみとなっていた。

本作は、おそらく日本の画家としては世界で一番有名であろう葛飾北斎の90年の生涯を描いた、一代記映画である。

江戸時代、貴重な海外輸出品としての漆器や陶磁器の”包み紙”として使われる程度の価値であった浮世絵。美術品などとの認識は露ほどもなく、のちにジャポニズムの発端となって世界の芸術家を熱狂させるとは夢にも思ってなかったであろう北斎。

青年期の北斎(柳楽優弥)は、当時の花形絵師であった歌麿や写楽に遅れをとろうとも、馬鹿にされ屈辱を味わい何度挫折しようとも、どんなに貧乏であっても、決して筆だけは置かなかった。この不器用で世渡り下手な北斎の一番の強みは"継続力"なのだ。

それは晩年(田中泯)になっても続いていた。衰えぬ画力と気力は、70歳にして「神奈川沖浪裏」という傑作を世に送りだした。驚異のシニアアーティストだ。

映画は、「寛政の改革」で表現の自由が奪われ、弾圧されていく様子も描いていく。

北斎を2人で演じた柳楽と田中の鬼気迫る演技は、この映画に重みを与え見応えの一つとなっている。

惜しむらくは、物語が生真面目すぎていやらしさが無いところ。教科書的とまでは言わないが、もう少しエロスがあってもいいと思う。新藤兼人監督の傑作『北斎漫画』(1981)と比べるのは酷だが、本作が新味に欠けるのは否めない。

とは言っても、面白く観られたのは確かである。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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