岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

その先見性と批判精神の鋭さで、人間の複雑な感情を描いた傑作

2021年07月22日

戦場のメリークリスマス 4K修復版

©大島渚プロダクション

【出演】デヴィッド・ボウイ、トム・コンティ、坂本龍一、ビートたけし、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉、内田裕也
【監督・脚本】大島渚

一人一人は優しくとも、集団になるとヒステリックになっていく

私が『戦場のメリークリスマス』を観たのは25歳のとき。カンヌで今村昌平の『楢山節考』とパルム・ドールを争うなど大いに話題になったが、私にとってはビジュアルや音楽を中心に感動はしたものの、共感したり感情移入をすることはなかった。

今回38年ぶりにCINEXで再見した。若い頃の、映画に感情移入したかどうかなどの感覚的な観方から、いまは映画の背景を探ったり、監督の製作意図を読み解いたり、その意図を超えた影響を考えるようになったが、『戦メリ』をあらためてみると、その先見性と批判精神の鋭さ、友情と愛情・嫉妬とプライドなど人間の複雑な感情を描いた傑作であることがよくわかった。

極限状況におかれた男性のみの社会、それも上官に対する絶対的な忠誠と、半ば狂ったような規律の中でおこった特別な感情。

男性が他人に注目したり仕事などの依頼をするとき、その能力と同じくらい「あいつに関わってみたい」と思うことがある。「男が男に惚れる」というような感情で、ホモセクシャルとは別だ。

自身も美青年であるヨノイ大尉(坂本龍一)が、金髪碧眼に鍛えた肉体、知性と反骨精神のある美青年セリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)を一目見た瞬間から、言葉にできない特別な感情を抱く。おそらくそのザワザワした感覚は、本人の中でも消化しきれていない。

カネモト(ジョニー大倉)と捕虜のオランダ兵との肉体関係、ハラ軍曹(ビートたけし)とロレンス中佐(トム・コンティ)との因縁のある特別な友情。

異性愛同性愛というくくりでなく、人間と人間の結びつきの深さ美しさを、大島監督は力強く描いていく。

武士道と騎士道という誉れ高き精神を、戦争という狂気により捻じ曲げられ、都合のいい解釈で押し付けられた酷さ。一人一人は優しくとも、集団になるとヒステリックになっていく心理の怖さ。

映画は全く古びておらず、今の時代にも通じる傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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