岐阜新聞 映画部

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この時代だからこそ観るべき法廷映画の名作

2018年01月18日

否定と肯定

©DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

【出演】レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール
【監督】ミック・ジャクソン

観客を置いてけぼりにしない見事な演出

 歴史的事実を都合よくねじ曲げた暴論も、負の過去を無かった事と思いたい人々にとっては、魅力的な正論になりかねない。「ホロコーストはなかった」という一笑に付すべき陰謀論も、放っておけば正当な反対理論となってしまうのだ。『否定と肯定』は、「ホロコーストがあったか、なかったか」を立証するのではなく、「なかった」と主張する否定論者のアーヴィングの過去の著書や言動から、彼の主張が如何に欺瞞(ぎまん)に満ちているのかを暴いていったエンタメ性と緊迫感に溢れた法廷映画である。
 実話なので結果はわかっているのだが、勝利するまでの過程がすこぶる面白い。重いテーマを扱いながら、軽やかな語り口の演出でストーリーは進んでいく。主役のリップシュタットと弁護士集団の間での弁護方針の対立を手際よく見せ、イギリス流法廷戦術を駆使しての丁々発止の論戦はテンポよく、しかも論点を分かりやすく整理してくれているので、置いてけぼりはくらわない。重要な戦術である「リップシュタットを喋らせない、被害者を証言させない」という彼女を苛立たせた方針が、何故なのかが次第に分かってくる説得力のある演出は見事である。また、彼女が少しずつ弁護団を信頼してくる描写もきちんと描かれており手抜かりがない。法廷映画のハイライトは判決言い渡しのシーンであるが、分かっていてもハラハラドキドキする。こういうシーンがわざとらしくなく描かれているので、存分にカタルシスを味わうことができる。
 ナチスものの映画は忘れてはならない禍根として、次から次へと名作が誕生しているが、またまた新しい視点での名作が誕生した。今の世の中の風潮にいささかの不安を覚える方々には、絶対お勧めの一本である。

『否定と肯定』は岐阜CINEXで1/20(土)より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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