岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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現在進行形のコロナ下の現実を本格的に直視した、初の劇映画

2021年06月07日

茜色に焼かれる

©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ

【出演】尾野真千子、和田庵、片山友希 / オダギリジョー、永瀬正敏
【監督・脚本・編集】石井裕也

一度陥った負のスパイラルは、加速度的に連鎖する

新型コロナウィルス感染症は、人々の生活様式や経済・文化等に深刻で重大な影響を与えている。映画業界も相当な打撃を受けているが、私のような映画マニアは、お金を払って映画を観ることで業界に貢献するのだ。

本作は、現在進行形であるコロナ下の現実を本格的に直視した、初の劇映画である。出演者はもちろん、背景に写る街の人々もみんなマスクを付けている。

新自由主義経済で拡大した格差社会は、コロナ下による景気後退で社会的弱者をさらに窮地に追い込んでいる。

昼は花屋で夜は風俗店で働く田中良子(尾野真千子)は、元高級官僚の過失による交通事故で夫を亡くしたシングルマザーだ。一人息子の純平(和田庵)と公営住宅で暮らしている。

彼女は、「ただのバカな主婦」と値踏みされようが、見下されようが、「まぁ、がんばりましょ」とひょうひょうと乗り切っていく。不公平で理不尽で、どうしようもない閉塞感のある現実を受け流していく術である。時おりみせる貧乏ゆすりは、そんな彼女の心情が垣間見え、実に切ない。

一方で「謝罪が無い」という理由で賠償金は受け取らない。勝手に算定された金額、「これでお終い」という機械的対応。もし受け取ってしまえば怒りの矛先は自分に向かってしまうのだ。

世の中の強者の都合に合わせたルールなんかどうでもいい。自分のルールにこだわる良子。そうでないと自分の心が折れてしまう。

同僚のケイ(片山友希)もそうだが、一度負のスパイラルに陥ってしまうと、加速度的に不幸の連鎖がやってくる。人生の再チャレンジが出来ない固定化された社会の仕組みは、益々弱者を見捨てていってしまうのだ。

ケイは死にたいが、死ねないから生きていた。彼女の死因はおそらく自殺じゃなく事故だと思う。でもこれで負のスパイラルは断ち切れたのだ。悲しい現実だ。

ラストは希望を持って終わる。いや希望を持てる時代を切に願って終わるのだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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