迫り来る痴呆症のある真実を見つめた秀作
2021年05月20日
ファーザー
© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020
【出演】アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス、イモージェン・プーツ、ルーファス・シーウェル、オリヴィア・ウィリアムズ
【監督・脚本・原作】フロリアン・ゼレール
アカデミー受賞者の圧巻の名演 演劇アンサンブルの見事な映画化
ロンドン、"マイ・フラット"でひとり暮らしをしているアンソニー(アンソニー・ホプキンス)のもと、娘のアン(オリヴィア・コールマン)がいつものように訪ねて来る。
この日の真っ先の話題は、アンが手配した介護人をアンソニーが拒否したこと。
父娘の会話から、老いた父親を心配する娘の心情と、必要以上の介入を拒絶するアンソニーの高いプライドが浮かび上がる。
アンは恋人の存在をあかし、パリでの新生活を選択したことを告げ、身の回りの世話を介護人に託したいと、切迫した事情を吐露するが、父親は聞く耳を持たない。
帰って行く娘の後ろ姿を部屋の窓から見送る父。
場面転換…キッチンでお茶の支度をしているアンソニー。好きなオペラを聴きながら、軽やかな身のこなし、ごきげんの様子がうかがえる。
再び、場面転換転換…リビングと思しき部屋で寛ぐ見知らぬ男を発見し、狼狽えるアンソニー。男はアンの夫だと主張し、家は自宅で、アンソニーはアンの計らいで同居を始めたのだと説明するが、合点がいかない。買い物から帰宅したアンは初めに登場したアンとは別の女性だった。
『ファーザー』は2012年に発表された戯曲「Le Pere 父」の映画化で、その作者であるフローリアン・ゼレールが監督を務めた。
場面毎に登場人物や状況が変わり、戸惑うこと必至だが、事の次第はアンソニーの視点=主観で描かれていることで、アンソニーにはそう見えている事だと分かる。
舞台劇の空間づくりを、映像の演出に移行発展させた趣向は秀抜で、ほぼ室内に限定された場を縦横の構図で切り替え、窮屈に単調になることを抑え、そこに明暗を加えることで、重厚な映像を作り上げた巧みな演出は、映画初監督とは思えない完成度といえる。
高齢化社会ではより身近に迫る問題となる痴呆症を目の当たりする辛さ、あくまでもアンソニー個人に限定されているとはいえ、決して目を逸らすわけにはいかない。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。
語り手:覗き見猫
映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。