岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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美しくて魅力ある映画となった、現代の「人魚姫」

2021年05月14日

水を抱く女

© SCHRAMM FILM/LES FILMS DU LOSANGE/ZDF/ARTE/ARTE France Cinéma 2020

【出演】パウラ・ベーア、フランツ・ロゴフスキ、マリアム・ザリー、ヤコブ・マッチェンツ 
【監督・脚本】クリスティアン・ペッツォルト

惚れたら死ぬかもしれないリスク、クリストフの運命や如何に!

クリスティアン・ペッツォルト監督の作品は、「何も知らずに観た方が面白い」という、映画マニアの間で"さも当然"と信じられている暗黙のルールを破って観た方が賢明だ。 公式ホームページには事前に目を通して予習をしっかりし、上映中は字幕を一言一句漏らさないよう頭を集中させる。「ボーっと観てんじゃねーよ!」ってことだ。

『水を抱く女』は、原題を“Undine”というように、ヨーロッパに伝わる水の精ウンディーネの神話を、ペッツォルト流にアレンジしたファンタジー映画だ。

まずはウンディーネの神話とは何か?モチーフは「魂を持たない精霊は、人間との愛の絆によって魂を得ることが出来る」と「精霊界が定める貞節を破った男は、死の報復を受ける」の2つ。 これに着想を得て、フケーは「水の精(ウンディーネ)」という小説を発表し、アンデルセンは「人魚姫」というお伽話を書いた。ここまでは予習。

映画の冒頭、ベルリンの博物館で働く学芸員のウンディーネ(パウラ・ベーア)は、いきなり恋人のヨハネス(ヤコブ・マッチェンツ)から納得しかねる理由で別れを告げられる。事前学習のおかげで、これ男にとって相当ヤバイ状況だとわかって観ることができる。

がペッツォルト監督が単純に物語を進めるわけがない。次にはウンディーネが精密な街並みのジオラマを前に、ベルリンの歴史を克明に説明するシーンがかなり長く続く。地図マニア的にはかなり面白いが、映画としての監督の意図は一生懸命考えたがよく分からない。

で本命の男・潜水夫のクリストフ(フランツ・ロゴフスキ)が、惚れたら死ぬかもしれないというリスクを知らないまま、彼女の前に現れる。クリストフの運命や如何に!という話だ。

難解さは抑え気味ではあるが、現実とファンタジーの境目は曖昧模糊で、まごうことなきいつものペッツォルト映画となっている。手強いが、美しくて魅力がある映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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