岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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父の子に対する深い愛情を前提に、親離れ・子離れを描いた映画

2021年05月13日

旅立つ息子へ

©2020 Spiro Films LTD.

【出演】シャイ・アヴィヴィ、ノアム・インベル、
【監督】ニル・ベルグマン

必要以上に思える強い関係性を否定してはいけない

本作の主人公・ウリ君(ノアム・インベル)は、自閉スペクトラム症(ASD)である。これまでは、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などいろいろな名称で呼ばれてきたが、障害特性は一人一人違っており一括りには出来ないという考え方から、アメリカ精神医学会の2013年発表の診断基準に従い、ASDと表現されるようになってきた。

ウリ君と父親アハロン(シャイ・アヴィヴィ)の絆はとても強い。息子だけが見えるかたつむりを踏まないように、抜き足差し足で道を進んでいく。パニックを起こせば、一緒に逃げてくれる。

自分のキャリアを投げ捨て深い愛情を注ぐようになるには、様々な葛藤があったに違いない。生まれてきた子どもに障害があると判明した時、「こんな子じゃなかったらよかった」と思う気持ちと闘いながら、必死に育ててきたはずだ。

だからこそ必要以上に思える強い関係性を否定してはいけないし、むしろ子どもの障害を受け入れられない親よりもずっといいのだ。

この映画が素敵なのは、共依存のような親子の関係性を肯定的に描いていること。それを前提にして、親離れ・子離れをテーマにしているところだ。

アハロンは、ウリ君を伸び伸びと育て上げたことを自慢に誇りに思っている。一方で自分が死んだ後のことを考えると不安でしょうがない。さあ、どうしましょう?

映画は、ウリ君が全寮制の特別支援施設に入るに際し、最も納得できてなかったのは父親だったことを浮き彫りにさせる。ウリ君に入所を嫌だと言わさせているのだ。

体験入所には応じるウリ君。子どもは親が思っている以上に成長していることを示す感動的なラスト。父親が子離れするのにかかった時間は決して無駄ではない。むしろ必要だったのだ。

映画の中で象徴的に使われている『チャップリンのキッド』。有名なシーンへのオマージュは、涙を誘うこと間違いなし。暖かい気持ちに溢れた映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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