岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

純度の高い今泉作品に、大橋流のとぼけたセンスが加味された傑作

2021年04月27日

街の上で

©「街の上で」フィルムパートナーズ

【出演】若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌(友情出演)
【監督】今泉力哉

下北沢の魅力が、映画からにじみ出てきている

『愛がなんだ』(2019年マイベストワン)の中で、イイい奴なんだけど遠慮がち、恋におくての好青年だった仲原青くん(若葉竜也)。私は彼が好きすぎて完全に同化して見ていた。

今泉力哉監督の最新作『街の上で』は、その仲原くんが荒川青(若葉竜也)と名字だけ変えて私の前に出てきたのだ。映画は、青くんが彼女の雪(穂志もえか)から浮気された上ふられるという、なんとも哀れでカッコ悪い状態でスタートする。

馴染の古本屋の店員・冬子(古川琴音)には、余分な一言でブチ切れられ、留守電へ謝罪の言葉を吹き込むという、滑稽でみじめな展開となってしまう。

学生監督の町子(萩原みのり)から卒業制作映画への出演を頼まれ、実直に練習を積み重ねるが、本番でのあまりのガチガチぶりでばっさり切られる。

その映画の衣裳係イハ(中田青渚)と外れ者どおし仲良くなって、ほぼ初対面の女性の家に泊まるという大胆な行動に出るが、もちろん良からぬ方向に進むわけがない。

やることなすこと、イケメンのプレイボーイみたいにはいかないが、もう青くんのことがたまらなく好きになってくるのだ。

舞台は下北沢。古着屋、古本屋、小劇場、ライブハウス、アート系映画館、個人経営のバー。誰でも受け入れてくれそうな包容力のある街の、その片隅でおこる人と人との出会いと日常とホンのちょっとの非日常。その一瞬を切り取った物語だ。

今泉映画には、かなわなかった恋も練習したけど使われなかったカットも、人生の肥やしになるよねっていう優しい目線がいつもある。

街の風景は変わっていくが、飾らなくていい街で飾らない人々が、昔も今も変わらず暮らしている。下北沢の魅力が、映画からにじみ出てきている。
今泉監督が書いたオリジナル脚本に大橋裕之さんが意見を言うという形の共同脚本。純度の高い今泉作品に大橋流のとぼけたセンスが加味された、恋愛映画の傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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