岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

揺れ動く思春期の少女の成長物語

2021年04月12日

夏時間

©2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

【出演】チェ・ジョンウン、パク・スンジュン、ヤン・フンジュ、パク・ヒョニョン、 キム・サンドン
【監督・脚本】ユン・ダンビ

逆らえない運命、受け入れられない運命

 夏、オクジュ(チェ・ジョンウン)は、弟のドンジュ(パク・スンジュン)と祖父の家にやって来る。そこは広い庭のある別世界のような場所だった。

 所謂、"ひと夏もの"だが、少し事情が違うのは、父親が事業に失敗したことが引越しの理由だっり、母親は不在になってしまっていることだ。

 父親は夏休み中だけのことだと言うが、オクジュには到底、新天地とは思えず、身体の不自由な祖父に対しても、馴染めない違和感しかない。一方、新しい環境に直ぐに順応して行く弟にも少しイラッとするのだった。

 そこに、父の妹=叔母が転がり込んで来る。その叔母も離婚寸前の身の上で、兄妹の仲も良好とは言えず、そこには険悪な空気感が流れる。

 ひと夏ものと同様、ちょっと面倒な家族の話というのもよくある。『夏時間』は、それに対峙しなければならない思春期の少女を絶妙な距離感で描いた映画である。

 監督、脚本のユン・ダンビは、1990年生まれの女性で、本作は長編デビュー作となるが、その完成度は高い。

 少し薄暗い室内シーンのメリハリの効いた明暗。対象的な庭の木々や草花に輝く陽光の煌き。躍動感あふれる移動。といった撮影技法にも手馴れた熟練さすら感じさせる。オクジュの心の揺れ動きには、自身の追体験的を持って描いたリアルさがある。

 祖父は妻に先立たれ、独り暮らしには広すぎる家で生活していたが、突然、子どもや孫たちの同居で一変する。それは老いた父には、孤独を癒してくれる僥倖でしかない。

 叔母がかかえた夫婦の問題に、許すことのできない母親の心情を重ねる。決して許容できない運命を徐々に受け入れ、大人に成長していくオクジュ。

 韓国映画のひとつの代名詞でもある、派手なアクションからは遠く離れて、少女目線を貫く瑞々しさに溢れた凛とした映画である。再び、韓国映画の成熟を感じる新たな才能の開花を目撃する。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る