岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

現代の"ノマド=漂流民"を見つめたロードムービーの秀作

2021年04月07日

ノマドランド

© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

【出演】フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ
【監督・脚色・編集】クロエ・ジャオ

豊かではないアメリカの別の顔が見える

 2008年、リーマン・ブラザーズの破綻により世界的な経済恐慌が吹き荒れた年。アメリカ・ネバダ州のエンパイヤでは、大企業の撤退により、従業員の解雇、社宅の閉鎖が断行された。

 『ノマドランド』は、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作としている。ネバダ州では映画の舞台となるエンパイヤの他にも、鉱山系の企業城下町として発展した街が、同じ運命をたどりゴーストタウン化した例が少なくない。

 映画の冒頭、ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、既に、車上生活者となっている。街の主であった企業に長く勤めた夫は亡くなり、社宅としての住居を失い、収入源も絶たれた。職業相談所では、年金の早期支給を勧められるが、それには「働きたいの…」と拒絶の意思を示す。スーパーマーケットで遭遇する代用教員時代の教え子には「先生はホームレスになったの?」と問われ、「ホームレスではなく、ハウスレスになったのよ」とニュアンスの違いで、尊厳を強調する。知り合いからは、躊躇わずに「頼れるものは利用するのよ」と忠告されるが、ファーンの意思は揺らぐことがない。

 クリスマスシーズンの繁忙期の"amazon"の集配で働き、国立公園の雑用係を仲間に斡旋してもらい、季節労働者として収穫期の農園にも出向く。それは過酷な漂流生活に見えるが、ファーンには悲観も諦念もない。

 同じ車上生活者たちが集結する場所がある。それは昔のヒッピーのようにも見えるが、圧倒的な違いは、多くが高齢者であることと、自尊心と互助の精神を維持していることだ。

 綺麗事ではない生活臭のするリアルな描写。時にファーンが見つめる大自然の神々しい風景。長編3作目となる女流監督クロエ・ジャオの格調すら感じさせる演出も秀抜だが、繊細な表情にさりげない動作を演技することなく表現するマクドーマンドの存在感が映画を支えた。

 出演者の多くは実在の"現代のノマド=漂流民"である。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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