岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

移民一世の韓国人一家の苦難の物語

2021年04月01日

ミナリ

©2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.

【出演】スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン ほか
【監督・脚本】リー・アイザック・チョン

明日への希望をミナリ(セリ)に託す

 米国の映画界で近年秀作を連発しているA24とPLANBの製作かつ前評判がいいので見に行ったら、期待どおりの良作だった。監督・脚本のリー・アイザック・チョンの半ば自伝と想像するが、長編数本目とはいえ手慣れたもので映画としての完成度は高い。

 舞台は1980年代の米国アーカンソー州の片田舎。カリフォルニアから引っ越して来た韓国からの移民一家の物語。スティーブン・ユアンの父親はそこで韓国野菜の農場を経営し、ダラスやオクラホマなど大都市の韓国人へ販売しようとする。購入した農地の肥沃度や慣れない気候に振り回される。当時の韓国は軍事政権が続いていたため、祖国での息苦しさから脱出したかったとの背景が語られる。

 対して妻は現実的で心臓に疾患を持つ長男の健康を第一に考え、目先の成功に一喜一憂する夫との諍いが絶えない。現実をしっかりと見据え、周りに流されない気丈な妻なのだが、我が強すぎ。素朴な一家の物語がなぜ心を打つのだろうか。とりわけ米国人は自分の親または祖父母の世代との共通点を見出すからだろう。言い換えれば普遍的な話として成立させている構想力がこの映画にはある。

 字幕やナレーションは一切使用せず、映画の進行に連れて一家の過去や背景が徐々に明らかになっていく脚本も優れている。ノスタルジックに回想するような手腕は使わず、現在の出来事のように描く冷徹さも見事だ。

 題名の「ミナリ」とは韓国語で野菜の「セリ」のことらしい。荒地でも立派に育つことから、明日への希望を託しているのだろう。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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