岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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精神科医としての志しと成長を描いた心暖まる好編

2021年03月29日

心の傷を癒すということ《劇場版》

Ⓒ映画「心の傷を癒すということ」製作委員会

【出演】柄本佑、尾野真千子、濱田岳、森山直太朗、浅香航大、清水くるみ、上川周作、濱田マリ、谷村美月、趙珉和、内場勝則、平岩紙/キムラ緑子、石橋凌、近藤正臣
【脚本】桑原亮子

目に見え難い心の傷に寄り添うということ

 この映画は題名に"劇場版"とあるように、はじめ、テレビドラマとして放送されている。昨年のキネマ旬報ベストテンで第1位に輝いた『スパイの妻』と同じ経緯である。かつてはあった映画とテレビは別物という明確な区分には、少し差別的な要素が含まれていたが、最近は、その違和感は弱められているのかも知れない。それは"劇場版"として公開された映画が、映画として受け入れられる完成度を持っているからに他ならない。映画的とかテレビ的の区別には明確な基準など存在しておらず、物語を映像にするという根本は同じなのだ。

 "安"家は父・哲圭(石橋凌)の事業が順調で、智明と和隆の兄弟は裕福な家の子として、なに不自由なく育っていた。父の帰りを玄関先まで出迎える行為は、厳格な家風を想像させるが、それは同時に違和感でもある。

 やがて、和隆は自らの"在日"という出自を知る。その事実がその後の和隆の生き方におけるの指針に、良きにつけ悪しきにつけ影響した。

 医学生となった和隆(柄本佑)は、高校生の頃に読んだ精神科医・永野(近藤正臣)の著書に深い感銘を受け、精神科医を志すようになる。父親は目に見えにくい精神科医の仕事を軽んじて、その進路決定に強く反対するが、和隆はその時初めて厳格な父に逆らい自らの意思を貫く。

 妻となる終子(尾野真知子)との出会いである映画館でのエピソードが描かれる‥神戸三宮駅近くの名画座。上映されているのは小津安二郎の名作『東京物語』。終演後に交わされた会話が、再会の糸口となるという、こころ暖まる話。ちょっと、でき過ぎたきっかけだが、映画ファンにはたまらない幻想性がある。

 家庭を持ち順風な日々を送っていた和隆だったが、1995年1月17日、阪神淡路大震災に遭遇する。そして避難所に身を寄せる被災者の心のケアのための奔走格闘が始まる。和隆のモデルは原作者でもある精神科医・安克昌で、実在の精神科医の真摯な生き方は心を打つ。そして和隆を演じた柄本佑の自然体の演技が秀抜だ。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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