岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

優れた作品揃いの西川美和監督の最高傑作

2021年03月17日

すばらしき世界

©佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

【出演】役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美
【監督・脚本】西川美和

名優役所広司の演じる善と悪のふたつの顔

 近年世界的に女性映画監督の活躍が目覚ましいが、日本でも昨年終盤から女性監督の傑作・秀作が相次いで公開されている。河瀨直美監督の「朝が来る」、大九明子監督の「私をくいとめて」、岨手由貴子監督の「あのこは貴族」、そして、西川美和監督の「すばらしき世界」である。

 西川美和は、日本の女性監督のトップランナーのひとりで、自身のオリジナル脚本による「蛇イチゴ」、「ゆれる」、「ディア・ドクター」、「夢売るふたり」、「永い言い訳」といった優れた作品を撮り続けてきた。その一貫したクオリティの高さは驚くばかりだが、初めて原作物(佐木隆三の「身分帳」)に挑戦した「すばらしき世界」は、彼女の最高傑作と言える出来栄え。観察眼に優れた西川美和監督は、女性でありながら男性を主人公にした映画が特に優れているのが特徴的である。

 前科者の社会復帰の難しさをリアルに描いた「すばらしき世界」は、正義感が人一倍強く直情的で喧嘩っ早い主人公の不器用な生き方に、温かい眼差しでカメラが寄り添い続ける。

 主人公(三上正夫)を演じる役所広司が素晴らしい。どんな役柄を演じても、自然な佇まいで説得力と固有の人間味を醸しだせる名優である役所にとっても、最高の演技のひとつと断言できる。

 主人公の優しい善良な顔と暴力的な悪の顔のふたつを描くことで、人間という善と悪に簡単に二分できない複雑な存在をまるごと捉え、同時に、人間社会そのものも人情と無慈悲が同居する、素晴らしくも悲しい世界であることを描き上げた、心に沁みる必見作である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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