岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

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推定無罪の原則を、「思い込み」が凌駕していく

2021年03月09日

私は確信する

©Delante Productions - Photo Séverine BRIGEOT

【出演】マリーナ・フォイス、オリヴィエ・グルメ、ローラン・リュカ、フィリップ・ウシャン、インディア・ヘア ほか
【監督】アントワーヌ・ランボー

「信じたいウソ」で「私は確信する」のか?

 この映画を観ていたら、日本での過去の事件が思い浮かんできた。

 「疑惑の銃弾」という週刊誌の連載記事を皮切りに、逮捕前からマスメディアに犯人と名指しされたM氏の「ロス疑惑」(最高裁で無罪が確定)。松本サリン事件の被害者なのに、マスコミから犯人扱いされたK氏。数年前、北海道の山中で行方不明になった7歳男児がいたが、1週間後に見つかるまでの両親への誹謗中傷。

 本作は、「ヒッチコック狂による遺体亡き殺人」としてフランスマスコミにセンセーショナルに煽り立てられ、それに呼応するかのように、確たる動機や証拠もないまま起訴された「ヴィギエ事件」を描いた映画だ。

 結果は無罪。冤罪であったと分かってはいるのだが、250時間に及ぶ電話記録を地道に調べ証言の矛盾点を発見していくシーンや、証言者に辿り着くまでの道程、好奇の目にさらされながらも証言をひるまない関係者、二転三転しながらスリリングに展開していく法廷戦術など、ネタバレなんかクソくらえとばかりに面白くみせていく。

この事件にのめり込んでいくノラ(マリーナ・フォイス)は、ジャック・ヴィギエ(ローラン・リュカ)の無実を晴らそうと奮闘する、正義感溢れるシングルマザーだ。

 一審の陪審員裁判で無罪になったにも関わらず、検察は異例の控訴をする。危機を感じたノラは、フランスで最も有名な人権派弁護士デュポン=モレッティ(オリヴィエ・グルメ)に、彼の弁護をするようにと無理やり頼み込む。ちなみに無罪請負人と言われる彼は、2020年よりマクロン内閣の法相に就任している。

 「疑わしきは被告人の利益に」という「推定無罪の原則」を無視したようなマスコミ。「思い込み」が幅を利かす証言。弁護活動に奔走するノラでさえも、証拠なしに真犯人を推論する。

 「信じたいウソ」が「事実」に勝る世界の中で、その判断に「私は確信する」のかを問うた、いまを反映する映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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