岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

切った張ったの時代は終わった。若者から見た滅びゆく彼ら

2021年03月03日

ヤクザと家族 The Family

©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

【出演】綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補/寺島しのぶ、舘ひろし
【監督・脚本】藤井道人

ヤクザ者から半グレへ、暴力の連鎖は終わらない

 準構成員を含む暴力団勢力は、ピークだった1963年の18万人余りから、2019年には過去最少の2万8千人余りとなった。

 粋でいなせな風来坊、きっぷのいい“ヤクザ者”は、圧政に苦しむ一般庶民のダークヒーローとして街の中で共存してきた面もある。しかし彼らの暴力的脅迫による経済活動や、実際の抗争が前面に出てきてからは、暴対法(1992年施行)や暴排条例で徹底的に排除されている。

 1960年代中頃から70年代まで、東映を中心として全盛を誇ってきた任侠・実録映画。そのリアルな感覚に直接影響を受けていない1986年生まれの藤井道人監督が描いた本作は、過去の名作にリスペクトしつつ、現代の目からヤクザを描いた傑作となった。

 1999年、父母を亡くした山本賢治(綾野剛)は、その暴力的素養もあいまってチンピラになっていた。その時、偶然出会った柴咲組組長(舘ひろし)に彼は父性を感じ、暴力団の組員となる。金髪で白のダウンジャケットを着た賢治。血に染まるシーンが美しい。

 2005年、背中に修羅像の刺青、黒髪で黒のスーツに身を固めた賢治は、柴咲組の幹部になっていた。まだまだ“切った張った”が許された時代。兄貴分の身代わりになって懲役に行くシーンが実に切ない。ここ迄は、監督のヤクザ映画へのオマージュを感ずる。

 そして10数秒の深い暗転。

 2019年、獄中から出てきた賢治を待ち受けていたのは、社会から取り残されたヤクザの世界であった。代わりに跋扈してきたのは、暴力団の家父長制的しきたりや、厳しい上下関係を面倒に思う、半グレと呼ばれる若者たち。

 藤井監督は、ヤクザ者を現代社会の脱落者として、不寛容な時代の象徴というように短絡的には描いてない。ましてや更生を妨げる道を閉ざしていいのか?などと単純化してもない。

 アウトローとしての生き様に、滅びの美学をみたのだ。それを肯定も否定もしてはいない。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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