岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

オランダの鬼才とフランスの至宝が突き付ける常識破りのサスペンス

2018年01月04日

エル ELLE

©2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINEMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

【出演】イザベル・ユペール、ロラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、シャルル・ベルリング、ヴィルジニー・エフィラ、ジョナ・ブロケ 【監督】ポール・ヴァーホーヴェン

 御年79歳の鬼才ポール・ヴァーホーベン監督が、フランスの至宝64歳のイザベル・ユペールと共に、既存の概念や凡庸なモラルに対して挑戦状を突き付けた、恐るべきサスペンス映画の傑作。世の中の「常識」や「らしさ」に縛られる人間の感性に対し、ミシェル(ユペール)の予想外の行動や、笑っていいものかどうかギリギリの演出で、見ている我々に揺さぶりをかけてくる。
 ミシェルは、我々が想像しているようなレイプされた女性がふるまうであろう行為は一切しない。しないどころか、警察にも連絡せず、何事もなかったかのように平然と割れた花瓶を片付け、ゆったりと湯舟に浸かり、日常会話の中に「レイプされたの」と普通にはさみ、みんなを驚かせる。性に奔放で平気で親友の旦那は寝とるし、隣人の股間は足で触るし、セクハラ動画を流した若い男性部下には、アレを見せれば許してやるとのたまう。自分の欲求には歯止めをかけず、男をドンドン虜にしていく。これを六十をとうに過ぎたユペールが、現役バリバリで演じている!
 しかし、決してレイプを許しているわけではない。冷静に着実に執拗に、レイプ犯に迫っていく。犯人が意外な者とわかった後も、いたぶるように彼を挑発しながら、復讐を遂げていく。
 レイプは残酷で非情な犯罪だが、ヴァーホーベンは、我々に「彼女にスキがあるからだ。男性関係が奔放だから呼び込むんだ」と考えはしまいかと問いかける。レイプ被害者というレッテルは、可哀そうと思う反面、一面的にしかとらえてないか?偏見や差別に繋がってないか?それは、彼女の父親が少女連続殺人犯で、世間からはその娘という偏見で今も見られている事にも繋がっていく。
 ミシェルはただ強い女という事でなく、固定観念に縛られず決めつけずに生きていけばいいのだと我々に教えてくれる。いささかも枯れたところのない、脂っこさ満載の傑作である。

『エル ELLE』は岐阜CINEXで1/6(土)より公開予定。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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