岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

激しくも儚い愛の物語

2021年02月03日

燃ゆる女の肖像

© Lilies Films.

【出演】ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ
【監督・脚本】セリーヌ・シアマ

燃えたぎる愛を焼きつけた肖像画の秘密を目撃する

 1770年、フランス北西部に位置するブルターニュの孤島が舞台。荒々しく突き出た岩礁に、激しく打ち寄せる波が海面を白く見せる海岸。女性を乗せた小舟が危うく着岸する。

 降り立ったのは画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)で、その身分は伏せられていた。

 マリアンヌは島の屋敷の伯爵婦人から、娘エロイーズ(アデル・エネル)の肖像画の製作を依頼されていた。家の次女であるエロイーズはミラノの貴族との結婚を控えていた。肖像画はその結婚相手に贈るものだったが、エロイーズは画家との対峙を拒絶し、肖像画は完成することなく、その製作は滞っていた。前任の画家が残した肖像画からは顔が抉り取られたごとくに存在しなかった。

 マリアンヌは身分を隠したまま、エロイーズの散歩の相手として接近する。

 はじめ、ふたりの接近は微妙な距離感を保つ。時折り、交わされる会話も断片的で、視線の先にも探り合いの揺らぎがある。

 『燃ゆる女の肖像』はマリアンヌとエロイーズの一瞬の愛を描いている。同性という叶わぬ関係を封建的な世相に閉じ込められたものとするのではなく、女性の生き様の現実的な力強さにも言及している。屋敷の小間使いソフィ(ルアナ・バイラミ)の存在が、脇役でありながらも際立つ。妊娠した彼女は迷うことなく堕胎を選択し、周囲の女性たちも助力を惜しまない。

 頑なエロイーズも次第にマリアンヌに心をひらく。自ら命を絶った姉のこと、縁談はその姉の代わりであり、修道院から呼び戻されたことも、意にぞぐわないことであること。肖像画の完成を遅らせることが小さな抵抗であること。

 静かな会話劇として進行するが、ぶつかり合う情念の視線の先にある、計算された沈黙の余白が素晴らしい。加えて、孤島、屋敷という狭い空間に限定されながら、女優たちの纏う衣装の色彩と漆黒にすら見える海岸の景色との対比、風に揺らぐ淡い黄緑色の草原が表現する心の揺れなど、大胆で繊細な映像表現が際立つ。

 ビバルディの四季のもと、長回しの幕切は圧巻!

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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