岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

犯罪者が神父に化けるサスペンス

2021年02月02日

聖なる犯罪者

© 2019 Aurum Film Bodzak Hickinbotham SPJ. - WFSWalter Film Studio Sp. z o.o. - Wojewódzki Dom Kultury W Rzeszowie - ITI Neovision S.A. - Les Contes Modernes

【出演】バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク
【監督】ヤン・コマサ

村人にとって主人公は天使か悪魔か

 ポーランドの監督ヤン・コマサの長編第3作。第1作は未公開。2作目「リベリオン ワルシャワ大攻防戦」(14)はワイダの「地下水道」のようなアート系の肌ざわりはなく、どちらかといえばハリウッドのアクション映画に近い娯楽作だった。なお、4作目「ヘイター」(20)はネットフリックスで配信されているので見たが、大学をドロップアウトした青年がフェイクニュースでライバル企業や政治家を貶めるブラックIT会社で暗躍する話。本作とはタッチがまるで異なる。

 3作目の本作が最も完成度が高く野心作である。少年院を退所した主人公はポーランドの片田舎の製材所で働くことになる。途中立ち寄った教会でたまたま神父の服を持っているのを見せたところ、交代要員と間違われ老いた神父の代理として働くことになる。ヒッチコック映画によくある他人へのなりすましのサスペンスだが、観客はいつバレるのかという不安や主人公の罪悪感と一体化する。個人的にこの映画で驚いたのはポーランドの寒村の人々の信仰心の高さだ。神父は冠婚葬祭のすべてを取り仕切り、告解で日々の悩みに付き合う。製材所の新しい工場の開所式ではスピーチも行う。日本では地鎮祭や起工式でお払いをするのみだろう。カトリックの信仰と影響の大きさが物語の根幹をなしている。

 本作の成功のもう一つの要因は主人公ダニエルを演じたバルトシュ・ビィエレニアのキャスティング。天使と悪魔が同居する青年像を巧みに演じている。少年院における暴力的な顔と教会で老いた村人たちの告解に寄り添う聖人君子の顔はどちらも本物に見える。

語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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語り手:シネマトグラフ

外資系資産運用会社に勤務。古今東西の新旧名画を追いかけている。トリュフォー、リヴェット、ロメールなどのフランス映画が好み。日本映画では溝口と成瀬。タイムスリップして彼らの消失したフィルムを全て見たい。

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