岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

事件をモチーフにした社会派ミステリーの秀作

2020年12月03日

罪の声

©2020 映画「罪の声」製作委員会

【出演】小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、市川実日子、宇崎竜童、梶芽衣子
【監督】土井裕泰

新聞記者の信念は足=行動によって実る

 "キツネ目の男" このキーワードはある年代にとっては刻印された記憶であろう。食品メーカーの社長誘拐という、事件の発端も衝撃的だったが、それに続く、製品への青酸化合物の混入といった実行行為とともに、企業脅迫は挑発的で、マスコミまでを巻き込み、劇場型の犯罪は世間を広く震撼させた。 それから35年。京都で父から受け継いだ小さなテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、妻と子どもと幸せな日々を送っている。気がかりなのは、病で入院している母のことだったが、久しぶりの一時帰宅が叶い、ひと安心できていた。

 新聞社に勤める阿久津英士(小栗旬)は今は文化部に籍を置き、当たり障りのない批評を記事にしたりしているが、もとは社会部の敏腕と活躍していた時があった。

 『罪の声』は塩田武士の同名小説を原作としている。小説は冒頭で触れた実際の事件をモチーフにしたフィクションだが、細部にまで取材した緻密なディテールは、隠れて知らなかった部分にまで迫り、リアルに食い込んでくる。

 仕立て屋の主人は、父の遺品から見つけたカセットテープに録音された、子どもの頃の自らの"声"を発見したことで、過去の記憶が甦る。 文化部の記者は、社会部からの依頼を受けて、模倣を疑われた事件に関わった、謎の中国人の取材のためイギリスへ渡るが、成果を得ることなく帰国することになる。

 噛み合うはずもないこのふたりが、いくつかの手掛かりを手繰り寄せるうちに出会うことによって、事件の謎解きの物語もスリリングにスピーディーに展開していく。原作の重厚さを活かした、巧みな脚本の構成が秀抜で、適材適所のキャスティング、随所でストーリーにアクセントを加える華麗な演出技法も素晴らしい。かつての日本映画にあった社会派映画と比肩しても見劣りしない秀作に仕上がっている。

 ただ、新聞記者としての信念と行動力は立派だが、文化部の仕事の対極として、その意義を強調する理想論が甘美に眩しく見えるのは辛い。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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