あのミュージシャンの若き日を目撃する

　この映画の語り部であるベリー・ゴーディーJr.は1929年、アメリカ・ミシガン州デトロイトに8人兄弟の7番目の子として生まれた。家は裕福とは言えないまでも、黒人社会では中流の家庭だった。父親はデトロイトの地に希望を抱いた。何故なら、そこには自動車産業の拠点としての好景気にあったからで、黒人が職を見つけることができたからである。

　ゴーディー家の兄弟は揃って教育を受け、立派な黒人市民となっていたが、ベリーは高校（第11学年）を中退し、一攫千金を夢見てプロボクサーとなりリングに立った。それは1950年、朝鮮戦争のため、陸軍に徴兵されるまで続いた。 53年の帰国後、最初の妻テルマ・コールマンと結婚したが、その頃から音楽への関心が深くなり、作曲をしたりしている。まもなく、ジャズ中心の品揃えのレコード店を始める。しかし、マニアックゆえに経営は上手くいかず、自動車工場で働いたりするが、音楽への憧憬は途切れることがなかった。そして、ゴーディーは家族から集めた800ドルを資金に、"タムラ・レコード"を設立した。それは1959年のことだった。

　映画の冒頭、住宅街にあるごく普通の一軒家が映し出される。デトロイトの西グランド通り2684番地にあるそこは、今は博物館になっているが、伝説の音楽レーベル"モータウン"の拠点…始まりの地である。

　ジョン・F・ケネディが大統領に当選した、会社設立の翌年の1960年には、映画のもうひとりの重要な証言者スモーキー・ロビンソンが率いる"ザ・ミラクルズの「Shop Around」が大ヒットとなり、その認知は全米に広がる。

　『メイキング・オブ・モータウン』は、最近数多く公開されている音楽を題材にしたドキュメンタリーで、創立60周年を迎え、数多のミュージシャン、憧れの音楽レーベルの歴史と伝説を紐解く物語になっている。

　今も活躍する錚々たる顔ぶれのミュージシャンたちの若き日の姿を発見する喜び！証言やエピソードで明らかになる伝説の誕生に驚愕する！