岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

苦労話にしなかった倦怠期夫婦の悲喜交々

2020年11月27日

喜劇 愛妻物語

©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

【出演】濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田聡、宇野祥平、黒田大輔、冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石研
【監督・脚本】足立紳

新藤兼人監督版『愛妻物語』へのオマージュ

 年収50万円、結婚10年目、依然として売れない脚本家・豪太(濱田岳)は、パートで働く妻のチカ(水川あさみ)に生活を支えられて、娘アキの世話と中途半端な家事に勤しんでいる。

 以前、企画が立ち上がり、一度はお蔵入りしていたホラー映画の話が復活して、ニンマリとして帰宅するが、妻の反応は厳しい。期待させてからの落胆、浮き沈みの多い職業が、疑心暗鬼にさせる要因でもある。しかし、豪太の最大の懸案は、この2ヶ月、妻とセックスしていない、させてもらえないことだった。

 『喜劇 愛妻物語』は足立紳が2016年に発表した小説「乳房に蚊」を自ら脚本化し映画として完成させた。映画人に貧困はつきものだが、売れない脚本家というのは些か自虐的過ぎるかも知れない。

 『愛妻物語』で思い浮かぶのは、1951年に公開された新藤兼人監督のデビュー作の『愛妻物語』である。

 駆け出しの脚本家・沼崎敬太(宇野重吉)が、度重なる挫折に遭遇しながらも、妻の孝子(乙羽信子)の健気な献身に支えられ、成功への足がかりを掴む物語で、極めて自伝的な要素が強い。

 ホラー映画の企画はヤッパリつぶれる。代わりに浮かび上がるのが、"高速うどん打ち女子高生"の話で、シナリオハンティングの取材に妻を誘うという、一石二鳥もしくは三鳥の起死回生が下心としてあった。チカは渋々ながら運転手を受け持つ同行を承諾する。

 豪太を演じる濱田岳は持ち味の軽妙さで、男の助平さを可愛く演じている。

 チカ役の水川あさみも、時にキレる凶暴さを秘めた女性像はお手のもので、嬉々として演じているが、役作りで太るなどした努力は、豪太の眼前に差し出される、ピンクのパンティに包まれた見事なお尻で昇華される。

 足立紳監督の男はこんなものという意図は見えるが、下ネタに徹し過ぎたことと、当て書きに近いハマり役の夫婦の芝居に、予測の範疇という弊害が見えることが、笑いを超える"快"笑への導火線を燻らせてしまっているのが少し残念だった。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (10)
  • 検討する (0)

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

ページトップへ戻る