岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

ダメ人間を描かせるとピカイチな足立伸

2020年11月27日

喜劇 愛妻物語

©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

【出演】濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田聡、宇野祥平、黒田大輔、冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石研
【監督・脚本】足立紳

的確なところに的確なシーンが描かれる脚本に足立伸の手腕が光る

 昔の映画を観ていると、タイトルに「喜劇 ○○」とつくものが多い。この「喜劇 ○○」スタイルでパッと思いつくのは60年代~70年代にかけての松竹映画。「喜劇 あゝ軍歌」「喜劇 女は度胸」「喜劇 ここから始まる物語」などなど。他にも東映の喜劇列車シリーズや東宝の駅前シリーズなどがこのスタイルだ。

 そんな昭和感満載のタイトルがついた本作「喜劇 愛妻物語」。加えて「喜劇」の後に「愛妻物語」と続く昭和感の二乗。新藤兼人を思い出すこのタイトルは昭和以外の何物でもない。てっきり私は「愛妻物語」のリメイクかと思ってしまったが、本作は全くの別物だ。

 その内容は売れない脚本家の豪太(濱田岳)と妻のチカ(水川あさみ)、娘のアキ(新津ちせ)の取材旅行を描いたロードムービー。しかし、この豪太が見事なまでに甲斐性なしのダメ男。肝心なときに後ろ向きでいつも失敗ばかりのくせにプライドだけは高い。チカはそんな豪太に終始イライラ、おかげで夫婦はセックスレスの倦怠期。日中はイライラしているチカとそんな妻の顔色をうかがう豪太。夜はどうにかセックスに持ち込みたい豪太と絶対にしたくないチカ。朝から晩まで繰り広げられるこの二人のやり取りはまさに攻防戦。クスっと笑いがこぼれ、時にイライラし、時にホロリとさせられる。このコメディ一辺倒ではない作りが人情喜劇やシニカルな笑いが多かった昭和の“喜劇”っぽい。しっかり内容面でも「喜劇 ○○」スタイルを継承していた。

 さて、そんな本作であるが、実は様々な要素が非常にバランス良く散りばめられている。夫を罵倒しまくるチカの姿に“なぜ結婚したのか?”と観客が思い始めるころに豪太への愛情を感じるシーンが描かれ、豪太の言動にイライラしはじめるころに憎めない彼の姿が描かれる。雰囲気の悪い喧嘩シーンの後にクスっとさせられるやり取りやエピソードが来る。このバランスの良さ。的確なところに的確なシーンが描かれる脚本に足立伸の手腕が光る。

 そして、足立伸はダメ人間やどこか欠陥のある人間を描かせたらピカイチの脚本家である。多くの人が共感したり、イライラしたり、でも憎めなかったり。誰しもがどこか欠陥を抱えながら生きているからこそ、リアルで等身大の足立脚本は魅力的なのだ。そして初監督作「14の夜」で証明された監督としての手腕も本作で存分に発揮されていた。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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