岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

映画としても見事に成立した傑作

2020年11月06日

本気のしるし 劇場版

©星里もちる・小学館/メ~テレ

【出演】森崎ウィン、土村芳、宇野祥平、石橋けい、福永朱梨、忍成修吾、北村有起哉
【監督】深田晃司

「放っておけない」という心理が実に巧みに描かれている

 深田晃司監督には『淵に立つ』以降、『海を駆ける』『よこがお』『本気のしるし 劇場版』と新作公開の度にCINEX映画塾に来ていただき、毎回当意即妙なトークと興味深い話題で楽しませていただいている。

 深田監督が凄いのは、ご自身の映画制作のみならず、約3億3千万円の支援金を集めた「ミニシアター・エイド基金」や、映画業界にはびこる無自覚な暴力性について「自分の立場を利用して相手の心身を服従させません」とのハラスメントに関するステートメントを宣言するなど、業界全体の発展のため積極的に発信されているところだ。

 深田監督は、人間の多面性や内面に潜む衝動を緻密かつ大胆な演出で鋭くえぐり出していくが、女性に関する描き方や眼差しは、男性目線の尺度に捉われないよう気を配り、ステレオタイプな「ファム・ファタール」にはしていない。男性にとって都合のいいヒロインではないのだ。監督の「パワハラ・セクハラはしない」という強い思いが、ジェンダーレス目線での描き方となり、映画は通俗的になっていない。本作も勿論その視点が貫かれている。

 玩具会社の営業社員で、仕事はそこそこ出来るイケメンの辻(森崎ウィン)。先輩の細川(石橋けい)とは腐れ縁、後輩の藤谷(福永朱梨)からは一方的に好意を寄せられる関係だ。惚れられたことはあっても惚れたことはなかったであろう。

 そんな辻の前に現れた浮世(土村芳)。優柔不断で、嘘つきで、都合が悪くなると「すいません」と謝り続ける迷惑いっぱいの女なのに、彼は何故だか隙だらけの浮世のことが気にかかる。細川先輩や藤谷がどれだけ辻に献身的に尽くしても本気にはならないのに、浮世には違う。「放っておけない」という心理が実に巧みに描かれているのだ。

 ダメ男に惚れる女性の映画はいくつもあったが、ダメ女を追いかけてしまう男性映画は珍しい。

 テレビ放映時から観ているが、映画としても見事に成立した傑作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

観てみたい

100%
  • 観たい! (9)
  • 検討する (0)

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

ページトップへ戻る