岐阜新聞 映画部

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戦争の渦に翻弄され二重スパイとならざるを得なかった悲劇を描いた知られざる実話

2020年10月20日

ソニア ナチスの女スパイ

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【出演】イングリッド・ボルゾ・ベルダル、ロルフ・ラスゴード、アレクサンダー・シェーア、ダミアン・シャペル
【監督】イェンス・ヨンソン

弱みに付け込み協力者にさせていく政府機関の狡猾さ

 本作は、第二次大戦中、ノルウェーの大スターであったソニア・ヴィーゲットが、戦争の渦に翻弄され二重スパイとならざるを得なかった悲劇を描いた知られざる実話であり、スリラーである。

 当時ノルウェーはナチス・ドイツに占領され親独政権ができていたが、隣国スウェーデンは中立を保っていた。しかし、いつドイツに攻め込まれるか緊張状態が続いており、諜報活動が盛んに行われていた。

 このような背景の中で起こったソニア(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)の悲劇は、皮肉な事にその美貌であり堪能な語学力であり、女優としての演技力であった。さらに夫がスウェーデン人で、ノルウェーとの両国を何の疑いもなく行き来できることも災いした。平時ではその才能を遺憾なく発揮し活躍できたが、戦時ではそこに目を付けられ、図らずもドイツとスウェーデン双方から、それぞれの情報を収集するスパイ活動を受けざるを得なくなってしまった。

 彼女は訓練された職業諜報員でも、政治信条からの工作員でもない。スパイとなった直接的理由は、ナチスドイツに捉えられた父親の解放なのだが、祖国ノルウェーやスウェーデンのために引き受けたのは間違いない。

 しかし、国同士の駆け引きにより人生を狂わされた悲劇の女優であるにも関わらず、ナチスに加担したという理由で、長い間一方的に非難されてきた。

 映画はこの事実を、静かに落ち着いた演出で描いていく。誰が味方で誰が敵か?内通者は?など、サスペンス要素も充分で、ハラハラドキドキのシーンも続いていく。派手なスパイアクションを期待する向きには物足りないかもしれないが、彼女の悲劇性を考えると、私はむしろこれでいいのだと思う。

 弱みに付け込み協力者にさせていく政府機関の狡猾さ。激動の時代を生き抜いたソニア・ヴィーゲットの心情を思うと、悲しみと怒りがふつふつと湧いてくる。戦争の酷さを、ある女優の生きざまで描いた佳作である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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