岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

計算された構成が、監督の意図通りになっている名作

2020年10月13日

海の上のピアニスト イタリア完全版

©1998 MEDUSA

【出演】ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス、メラニー・ティエリー、ビル・ナン、ピーター・ヴォーン、クラレンス・ウィリアムズ三世
【監督・脚本】ジュゼッペ・トルナトーレ

20年前にも増して、音楽と人間性をダイナミックに奏でた優しさでいっぱい

 2000年1月、名古屋ピカデリー2にて観て以来、20年ぶりの映画館での鑑賞となる『海の上のピアニスト』。ウェルメイドでエモーショナルな作品が多いジュゼッペ・トルナトーレ監督の代表作の1つだ。初の英語作品でもある。

 当時はもちろん121分のインターナショナル版で観たわけだが、今回は170分のイタリア完全版で鑑賞した。20年前にも増して、音楽と人間性をダイナミックに奏でた優しさでいっぱいのトルナトーレらしい映画だと再確認できた。

  船の中だけで一生を過ごした天才ピアニストという設定、そのナインティーン・ハンドレッド(ティム・ロス)が、嵐の夜に荒波に揺れる船内で、踊る様に動くピアノを演奏する有名なシーンなど、現実にはまずあり得ない物語も、トランペッター・マックス(プルイット・テイラー・ヴィンス)が質屋の親父に語る中での話ということで、おとぎ話かほら話なのだと納得できる。

  以前より49分長い完全版は、無駄なシーンとか変に間延びした部分がないどころか、エンニオ・モリコーネの音楽はブツ切れ感がなくゆったりと聴かせ、短縮版では割愛された重要なシーンが加わり、エピソードの唐突感が無くなっている。

 いい例はナインティーン・ハンドレッドが、三等船客に囲まれて物思いにふけりながら「ダニーズ・ブルース」をピアノ演奏するシーン。なぜこの曲なのか意味が分からなかったが、完全版を観れば重要性が分かる。この曲の元歌は、彼を発見しずっと育てている黒人のダニーが、泣き止まぬ赤ん坊をあやす際に歌ったブルース風のゴスペルで、機関士たち仲間も唱和する。それをピアノにアレンジしたものなのだ。

 このシーンがある事によって、彼の魂の中に、事故死した育ての親のダニーへの熱い思いと、なぜ黒人の音楽リズムが根底に流れているのかがよく分かる。

 イタリア完全版。計算された構成が、監督の意図通りになっている名作だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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