岐阜新聞 映画部

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精神医学の〝認知行動療法”を実践したような、極めて優れた映画

2020年10月04日

ハニーボーイ

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【出演】ノア・ジュプ、シャイア・ラブーフ、ルーカス・ヘッジズ、FKAツイッグス
【監督】アルマ・ハレル

何よりもシャイア・ラブーフのシナリオがバランスのよいものとなっている

 2007年公開の『トランスフォーマー』で、主役の高校生を演じたシャイア・ラブーフ。それ以前からテレビのドラマで主役を張っていた人気子役だったが、アルコール絡みのトラブルなどで何度も逮捕されるなど、ゴシップネタがつきないお騒がせ俳優であった。

 本作は、彼が公共の場で泥酔し暴れて逮捕され、リハビリ施設でPTSDと診断されたことをきっかけに、心の中に封印してきた過去を呼び起こし再演して克服する、精神医学の〝認知行動療法”を実践したような、極めて優れた映画である。

 父親ジェームズ(シャイア・ラブーフ)は元道化師であったが成功せず、今やスターとなった息子オーティス(少年期=ノア・ジュプ、青年期=ルーカス・ヘッジズ)のマネージャー兼付き人兼おじゃま虫だ。存在感を示したいが空回りするばかり、息子の稼ぎがすべてという現実は、辛くもあり嫉妬もあるだろう。

 オーティスの方も、父は迷惑だが突き放しはしない。子ども心に父の心の苦しみに共感しているのだ。この心理のからくりが、次第に心の中に蓄積しトラウマになっていく。

 映画に登場するオーティスは、シャイア・ラブーフそのものである。しかし、盟友アルマ・ハレル監督は、2人の若き名優にそっくりショー的演技をさせず、父との愛憎半ばの関係を、誰でもありうる普遍的なものとして体現させている。

 さらに、シャイアが演じる役を青年期のオーティスから父親ジェームズ役に変更したのは、この映画を成功に導く大きな鍵となった。単純に言えば、父の立場に立って物事を見られることで、振り回されてきた父への造詣が深まり、感情移入できる人物となったのである。

 しかし、何よりもシャイア・ラブーフのシナリオである。感情過多にも独りよがりにもならず客観性も失わず、トラウマの原因である父親の苦悩にも心を通わせた、バランスのよいものとなっている。父の幻影に向き合った見事な映画である。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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