岐阜新聞 映画部

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優れた脚本と最高の配役が生んだ傑作恐妻喜劇

2020年10月02日

喜劇 愛妻物語

©2020『喜劇 愛妻物語』製作委員会

【出演】濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、大久保佳代子、坂田聡、宇野祥平、黒田大輔、冨手麻妙、河合優実、夏帆、ふせえり、光石研
【脚本・監督】足立紳

鬼嫁を演じた水川あさみは主演女優賞の有力候補

 『百円の恋』の脚本家である足立紳が、自身の自伝的小説を映画化した『喜劇 愛妻物語』は、昨年の東京国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞したのも納得の見事なシナリオ(特にダイアローグが秀逸)と、これ以上ないくらいベストなキャスティングが生んだ傑作コメディ映画。

 年収50万円の売れない脚本家と、そのダメ夫にうんざりして罵声を浴びせながらも家計と子育てをやりくりする鬼嫁を、濱田岳と水川あさみが演じている。ふたりの果てしなく繰り返される掛け合いの面白さたるや、一流のお笑い芸人を蹴散らすほど。濱田岳が適役なのは予想できたが、水川あさみの鬼嫁の見事なハマりぶりにはぶっ飛んだ。しかも、恐いばかりではない心根の優しさもしっかりと演じ、今年の主演女優賞の有力候補に躍り出た。

 元々夫の仕事をサポートする優しい愛妻だった彼女が、どうして鬼嫁に変貌したのかに関しても説得力がある。だから、鬼嫁でも彼女を応援したくなるのだ。

 昨年公開されたアメリカ映画『マリッジ・ストーリー』と見比べると興味深い。『マリッジ・ストーリー』のアダム・ドライバーは劇作家兼舞台演出家として成功し、女優の妻スカーレット・ヨハンソンとは日本でいうところのおしどり夫婦なのに破局を迎える。一方、『喜劇 愛妻物語』の濱田岳は鳴かず飛ばずの脚本家で妻に養ってもらっている状態なので日々夫婦喧嘩は絶えず、一見風前の灯に見えるが別れずにいる。

 この『喜劇 愛妻物語』を観て、改めて妻に感謝したいと思う夫は多いのではなかろうか。夫婦喧嘩に明け暮れる話だが、殺伐とした気持ちにはならず、笑いながらも温かい気持ちになれる素敵な映画である。

語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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語り手:井上 章

映画鑑賞歴44年。出来る限り映画館で観ることをモットーとし、日本映画も外国映画も、新作も旧作も、ジャンルを問わず観てきたおかげか、2006年に、最初の映画検定1級の試験に最高点で合格しました。

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