特殊撮影のない映像で体感する本物の浮遊感

　初夏、巣立ちの季節。ニュースではカルガモ親子の引っ越しの様子がよく放映される。親鳥のお尻を必死に追う雛鳥の姿は愛らしく、車道を横切る時にはハラハラと見守り、無事に辿り着い後には安堵に胸を撫でおろす。心和む映像。

　卵から孵った雛が最初に見たものを親と認識する話は、ネイチャー番組か何かで観た記憶がある。つい最近では、親を亡くしたオランウータンを自然に返すために、人間が様々な教育をする映像をテレビで観た。人間は異なる生き物の親となり得るか？

　『グランド・ジャーニー』は絶滅寸前の渡鳥を救うため、鳥たちに安全な渡りの飛行ルートを人が教える、という仰天な実話をもとにしている。

　気象学者のクリスチャン（ジャン=ポール・ルーブ）は鳥類愛好家でもあり、とびっきりの冒険家でもあるが、周りからは変人扱いされている。

　バカンスのためやって来た14歳の息子のトマ（ルイ・バスケス）は反抗期真っ盛りで、興味はオンラインゲームにしかない。そんな彼には、ネットが繋がらない環境は悪夢でしかない。湿地に囲まれた隔絶された田舎での生活に絶望するのだった。

　モデルになっているクリスチャン・ムレクは、渡り鳥の保護や繁殖、渡りの手助けに人生を捧げる学者で、この作品でも脚本（マチュー・プティなどとの共同）と、主役でもある鳥=雁の調教役を担当している。加えて、鳥たちを誘う軽量の飛行機は、独自で開発したものでもある。2003年に公開されたドキュメンタリー『WATARIDORI』（ジャック・ペラン他・監督/2001年）でも制作に参加している。

　ある日、トマは鳥の孵化に立ち会ってしまう偶然から、父親の無謀な計画、ノルウェーからフランスへの渡り鳥たちの誘導の旅に巻き込まれる。

　外気に直に触れる小型飛行機での飛行、鳥とともに飛ぶ浮遊感満点の撮影は素晴らしい。自らも冒険家であり、自然を良く理解している監督のニコラ・ヴァニエの力量が遺憾なく発揮されている。環境問題に一石を投じる社会派の側面も供えた、圧巻の映像美で魅せる親子の成長譚である。