岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

僅かな時間の中で、登場人物が抱える問題を手際良く浮き上がらせる

2020年09月27日

ポルトガル、夏の終わり

© 2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA © 2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

【出演】イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、パスカル・グレゴリー、ヴィネット・ロビンソン、アリヨン・バカレ、グレッグ・キニア
【監督・脚本】アイラ・サックス

人生の美しさと儚さに思いを巡らせ、生きる素晴らしさを再確認できるラストシーン

 本作は、リスボン郊外にある世界遺産の街・シントラを舞台に、死期を悟った大女優フランキー(イザベル・ユペール)が、関係する親族・友人をこの風光明媚な街に呼び寄せて、死後の算段をするというお話。当然思うようになるはずもなく、問題が噴出する。

 夫ジミー(ブレンダン・グリーソン)、夫の連れ娘シルヴィア、その亭主イアン、孫のマヤ、元夫ミシェル、実の息子ポール(ジェレミー・レニエ)、友人のヘアメイク担当・アイリーン(マリサ・トメイ)、その恋人の撮影監督ゲイリー。フランキーの思惑にも拘らず、離婚の危機あり、親子の断絶あり、ゲイのカミングアウトあり、簡単には死ねないという感じだが、大女優たるもの些かも動じる様子は無い。イザペル・ユペールには、悲嘆や傷心という言葉は似合わないのだ。

 アイラ・サックス監督は、朝から夕方までの12時間という僅かな時間の中で、登場人物が抱える問題を手際良く浮き上がらせ、それぞれの心の中を垣間見せてくれる。

 彼が尊敬するエリック・ロメールの映画のように、自然光を多用した美しい風景、役者をじっと見つめた長回しと印象的なロングショット、特別なことは起きないが軽やかで瑞々しい人間模様、そして夏という季節。巨匠にはまだまだ及ばないが、いい線はいっている。

 しかし、何よりも見応えがあるのは、もう一人の登場人物ともいえるシントラの街だ。

 それぞれの悩みを象徴する迷路のような路地と坂道、ジミーとアイリーンが喉を潤した結婚の泉、フランキーが彷徨う神秘的なシダの深い森、若い男女が恋を育むリンゴの浜、町と浜とを結ぶ赤い路面電車。

 圧巻は登場人物が一同に会するラストだ。遠くロカ岬を見渡せるペニーニャの聖域の山頂の、眼下に広がる広大な海に沈む夕日の中でのロングショット。人生の美しさと儚さに思いを巡らせ、生きていくことの素晴らしさを再確認できる、余韻に浸れるラストシーンだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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