岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

反ナチを貫く成長物語の秀作

2020年09月13日

17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

© 2018 epo-film, Glory Film

【出演】ジーモン・モルツェ、ブルーノ・ガンツ、ヨハネス・クリシュ、エマ・ドログノヴァ
【監督】ニコラウス・ライトナー

母に抱かれていた青年の巣立ちの後の出会いと別れ

 水のイメージ。さし込む陽の光。静寂の水中。地上では土砂降りの雨。激しい雨音に雷鳴が轟く。水に身を委ねる少年。それは母の胎内での記憶のように…。

 オーストリア・アッター湖の辺り、すっぽりと母親の愛情に包まれ暮らす17歳のフランツ(ジーモン・モルツェ)は、自立のためウィーンへ旅立つ。

 勤め先は母の古い友人が営む”キオスク“で、店には客の好みに沿う、さまざまなタバコが並んでいた。店主のオットー(ヨハネス・クリシュ)は、片方の脚は義足で、不自由そうには見えたが、出入りする客を巧みに差配する。常連のひとりに”頭の医者“ フロイト教授(ブルーノ・ガンツ)がいた。

 時は1937年。オーストリアはナチス・ドイツとの併合に揺れていた。店の客にはナチの新聞を求める者もいるが、店主のオットーは「うちではそういうものは置かない」ときっぱり拒絶した。

 ナチスのオーストリアへの侵攻は、1934年、ドルフス首相暗殺に始まるクーデターの関与がきっかけになっている。その後に誕生した政権も自国の独立維持を目指すが、ヒトラーによる圧力は次第に凶暴さを見せ始める。映画はこの時期の迫り来る危機に揺らぐ緊張感と、反動に沈む退廃的なウィーンの街を描いている。

 反ナチを貫くオットーの店はあからさまな嫌がらせを受けるが、毅然としたその意志が揺らぐことはない。

 フランツはフロイト教授と懇意となり、人生のアドバイスを授けられるようになる。それは難しい哲学ではなく、一歩踏み出すための手助けとなり、夜の街での出会いから生まれたフランツの恋の背中を押してくれるのだが…。

 ユダヤ人であったジークムント・フロイト教授は、1938年6月、イギリスに亡命する。列車に乗る教授をそっと見送ったフランツは、ナチスの手により不当に拘留されたオットーのため、ある決断をする。

 挿入される美しい幻想シーンで彩られた成長物語は、繰り返し登場する反ナチ映画の新たな一本として記憶される秀作となった。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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