岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

派遣切りに抗った労働者たちの実話

2020年09月06日

時の行路

©「時の行路」製作委員会

【出演】石黒賢、中山忍、松尾潤、村田さくら、渡辺大、安藤一夫、綿引勝彦、川上麻衣子、日色ともゑ(ナレーション)
【監督】神山征二郎

神山征二郎監督のぶれない社会派の視線

 静岡県三島市の大手自動車の工場で働く五味洋介(石黒賢)は、青森の八戸からの出稼ぎで、派遣社員という立場だったが、ベテラン技能工として周りからも信頼されていた。目下の夢は、正社員になって家族を呼び寄せることだった。

2008年、アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻する。はじめ、そのニュースは他人事と聞き流していたが、次第に五味の働く工場にも影響が及んでくる。

 派遣は1986年に”派遣法”が施行されて定着したとされるが、良く言えば派遣を合法化することで、労働者の保護につながったとみるむきもある。その後、規制緩和などで、派遣としての枠が広がったことで、専門的な職種からより広い職種へと非正規労働者が増加した。この傾向はバブル崩壊後も継続し、浸透していった。2004年の製造業への派遣解禁は、労働者の格差を生む温床となって、労働者の保護は形骸化したと言わざるを得ない。『時の行路』の主人公である五味は、製造業への解禁後の派遣工ということになる。

 会社側は不況に対処するための防衛という口実で、非正規労働者の解雇を断行する。これは契約期間内の不当行為であり、五味をはじめとした労働者は組合の結成を決め、経営側との対決構造を顕著化させていく。

 神山征二郎監督は岐阜市出身。独立プロダクションの草分的な存在であった近代映画協会で、創立メンバーの新藤兼人や吉村公三郎に師事し、キャリアをスタートさせている。

 デビュー作は『鯉のいる村』(1971)。その後も、岐阜県徳山村を舞台にした『ふるさと』(83)など、日本の原風景の中、そこに生きる人を見つめた作品を発表し続けている。一方、87年には大手の松竹で大ヒット作『ハチ公物語』を撮るなど、映画製作の場を自在に変える柔軟性は、日本映画界では稀有な存在と言える。

 監督30作目となる本作でも、その姿勢はぶれることはない。大企業に立ち向かう一労働者の姿を家族や仲間と共に、生活者の日常の目線で真摯に描ききっている。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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