岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

高校生演劇の名作戯曲の映画化

2020年08月22日

アルプススタンドのはしの方

© 2020「On The Edge of Their Seats」Film Committee

【出演】小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、目次立樹
【監督】城定秀夫
【脚本】奥村徹也

スクリーンのはしの方に見えてしまうと残念なもの

 呆然と立ち尽くす女子高生。教師らしき人物から「しょうがない」と声をかけられる。慰めか?優しさか?その声は聴こえても、届いたとは思えない。

 場面は一気に野球場に変わる。内野スタンドのいちばん外野に近い上段の端っこに、ファーストショットの女子高生ともうひとり。行われている野球の試合はそっちのけで、暑さをボヤき、その状況にいる事を呪っている。近くにやって来る男子高生は同じ学校だが、顔見知り程度の浅い関係が会話から分かる。3人それぞれのボヤキは、時に会話に発展するが、噛み合ってはいない。

 冒頭で立ち尽くしていた女子高生は安田さんで、隣にいるのが田宮さん。ふたりは演劇部だと分かる。男子高生は藤野くんで、元野球部員だった。

 安田さんと田宮さんは野球の試合はうわの空なのだが、それでもグランドには目がいく。野球知識皆無のやり取りはボケ漫才のようで、巻き込まれて参戦する藤野くんも呆れるしかない。

 3人の後方、スタンドのいちばんてっぺんに設置された手摺りの向こう側に、体育会には無縁そうに見える眼鏡をかけた宮下さんがいる。

 『アルプススタンドのはしの方』は、全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた演劇をもとにしている。その原形はこの4人の会話劇だった。アルプススタンドのそれも隅っこという限定された場所は演劇的な設定で、ワンシュチュエーションものというジャンルに合致する。戯曲=演劇は高い評価を受け、小劇場演劇に進化して、映画化が実現した。

 夏の甲子園、スポットライトを浴びているのは、真夏の太陽のもと、グラウンド上で野球の試合に打ち込む選手たちだが、それは演劇の設定をそのまま踏襲して映像には映らない。球場の気配に流石に無関心そうな4人の様子も変わる。元野球部の藤野くんには封印した野球愛がちらつくし、無関係そうな宮下さんにもグランドを見つめる理由があった。

 熱くならない4人それぞれが抱える、わだかまりの殻を破る過程は面白く描けてはいるが、話は終わってみればありがちな青春ものの枠内で、見せ方以上の驚きはない。そして、甲子園のアルプススタンドではないこと、野球の試合の空気感が届かないことが最後まで気になる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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