岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

音楽の方向性を政治的に利用される理不尽さを痛烈に暴く

2020年08月25日

剣の舞 我が心の旋律

© 2018 Mars Media Entertainment, LLC, DMH STUDIO LLC

【出演】アンバルツム・カバニアン、ヴェロニカ・クズネツォーヴァ、アレクサンドル・クズネツォフ、アレクサンドル・イリン、イヴァン・リジコフ、インナ・ステパーノヴァ、セルゲイ・ユシュケーヴィチ
【監督・脚本】ユスプ・ラジコフ

評伝の一部のみにスポットをあてた構成が成功

 洗練された旋律の中にロシアの土の匂いが感じられる幻想的なワルツ「仮面舞踏会」。運動会でおなじみ、木琴のけたたましい連打で始まり、民族音楽を取り入れた荒々しく躍動感のあるリズムが特徴の「剣の舞」。

 印象的な旋律で耳になじんでいるが、これらを作曲したのがハチャトゥリアン。曲も素敵だが、名前も実にカッコいいジョージア生まれのアルメニア人だ。

 本作は、スターリンによる粛清が吹き荒れ、暗く抑圧的な空気が漂う第二次大戦下のモロトフ(現ペルミ)が舞台。1942年暮れ、作曲家のハチャトゥリアン(アンバルツム・カバニアン)は神経衰弱気味になっていた。それというのも10日後にお披露目するバレエ「ガイーヌ」のリハーサルで、振付師ニーナからは何度も修正を求められ、文化省のプシュコフからは「最終幕に士気高揚する踊りを追加せよ」と迫られているからだ。

 芸術を社会主義リアリズムに強引に結び付けられた時代、音楽の方向性も政治的に利用され「形式において民族的、内容において社会主義的なもの」という、権力者に都合よくどうとでも取れる指示により、音楽家たちは翻弄されていた。芸術的な指示というより、嫉妬とか権力誇示のためとしか思えない。本作でも、そこらあたりの理不尽さを痛烈に暴いている。

 そんな中、20世紀最高の作曲家の一人・若きショスタコーヴィチと、モス・フィルのソリスト・オイストラフが激励に来る場面が楽しい。抑圧されている中での自由な表現に対する論議に加え、3人が路上で三重奏を披露するのだ。至福の時間である。

 誰もが不可能と思い、追い込まれていくハチャトゥリアン。絶体絶命のピンチの中、汽車の音のリズムからインスピレーションが湧いてきて、ひと晩で「剣の舞」を作曲する。身体全体から溢れてきたリズムなのだ。

 評伝の一部のみにスポットをあてた構成が成功しており、「知ってるつもり?!」になれる素敵な映画だ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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