ワイルドな生き様を等身大に描いた好編

　はじまりは刑務所。ドラッグ絡みの罪で1年の刑期を終えたローズ（ジェシー・バックリー）は、その日、出所を迎えた。同房の仲間からは派手な祝福の歓声で見送られるが、ローズの足首には監視システムであるブレスレットが装着される。素直に喜べないのは、仮釈放の期間が続くことと、待ち構えている気の重い現実があるからだ。

　家に帰れば、母親に預けたままの幼い娘と息子がいる。久しぶりの親子の対面にも再会の喜びはなく、そこには見えない溝が存在する。子どもたちが信頼を寄せるのは祖母マリオン（ジュリー・ウォルターズ）であり、時の重みを思い知るのだった。

　マリオンはそんな娘ローズの情けない様子を見て、夢に囚われることはやめて、母親である事を第一に考え、地道な生活をするようにと釘をさす。

　グラスゴーにある唯一のカントリーミュージックのライブハウスでの職も失い、バンドの活動もできなくなったローズは、身内のコネで資産家の家で家政婦の職に就くことになる。

　はじめは慣れない仕事に戸惑ってばかりだったが、女主人のスザンナ（ソフィー・オコネドー）の気取らない優しさと、好奇心旺盛で屈託なく接してくる子どもたちにも助けられ、ローズも打ち解けていく。

　ある日、ローズの音楽の才能を知ったスザンナは、夢を実現するために、激励と助言と方法を伝授してくれるのだった。

　『ワイルド・ローズ』の舞台はイギリス・スコットランドのグラスゴーで、カントリーミュージックの本場アメリカとは遠く離れている。違和感を感じる設定だが、そもそも、アメリカはイギリスから渡った移民が基になっている。カントリー音楽の根底に郷愁が滲むのは、ルーツの共有が関係しているかも知れない。

　スザンナの計らいで、聖地ナッシュビル行きの道が見えかけたローズだったが…。

　ローズを演じたジェシー・バックリーは、夢を諦めきれないシングルマザーを繊細に表現し、圧巻の歌声も披露している。スター誕生の物語だが、不器用でごつごつとしたワイルドな生き様を等身大に描いているところに好印象を残す。