岐阜新聞 映画部

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シングルマザーが歌手デビューを夢見てもがく姿を描いたアンチ「スター誕生」

2020年08月15日

ワイルド・ローズ

© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018

【出演】ジェシー・バックリー 、ジュリー・ウォルターズ、ソフィー・オコネドー
【監督】トム・ハーパー

ありきたりのサクセスストーリーとは一線を画す

 私が高校生の頃は、ラジオで最新の洋楽を聴くのがカッコよく、ロックやフォークを聴いて大人の気分になっていた。カントリー・ミュージックは仲間内ではダサくて見向きもされなかったが、映画好きの私にとっては「カントリー&ウエスタン」として一人悦に入っていた。

 本作は、イギリス・グラスゴーに住む2人の子持ちのシングルマザーであるローズ(ジェシー・バックリー)が、カントリー・ミュージックの聖地アメリカ・ナッシュビルでのデビューを夢見て懸命にもがく姿を描いた、アンチ「スター誕生」映画である。

 冒頭は、刑期を終えたローズが刑務所から出てくるシーンから始まる。自由を得て解放感に浸るのも束の間、実家に帰ると母マリオン(ジュリー・ウォルターズ)から「歌手になるなんて諦めて、子育てをしろ」と言われてしまう。自由がないのは、刑務所も家庭も一緒なのだ。この「家庭に縛られた女性」という設定が、ありきたりのサクセスストーリーとは一線を画す事になる。

 ローズは地元の資産家で黒人のスザンナ(ソフィー・オコネドー)の家で、しぶしぶ家政婦の仕事に就く。しかし、ここから運命の歯車は回り出す。スザンナがカントリー・ミュージックのファンで、彼女の知己のラジオDJボブ・ハリスがローズの歌声に興味を示し、会ってくれることになる。

 この設定が嬉しいのは、そもそもカントリー・ミュージックは、日々の生活の憂さ晴らしとしてアメリカ南部の白人労働者の間で発展してきたジャンルであり、今のポピュラー・ソングに繋がるもの。黒人の音楽がルーツでないのに、スザンナがファンであるという点だ。音楽に垣根は無い。

 ラスト、夢が破れたのか叶ったのか、それは観る人に委ねられるが、ジェシー・バックリーの歌声が素晴らしいことは確かだ。

 なお「カントリー&ウエスタン」というとローズに怒られそうな事が分かった。これからは「ただのカントリー」と言います。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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