岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

議論へ誘う極上の会話劇

2020年08月07日

お名前はアドルフ?

© 2018 Constantin Film Produktion GmbH

【出演】フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、クリストフ=マリア・ヘルプスト、ユストゥス・フォン・ドホナーニ、カロリーネ・ペータース ほか
【監督】ゼーンケ・ヴォルトマン

禁句から出たのは本音のぶつかり合い

 ライン川のほとりの清楚な住宅街にお屋敷はある。その主人は大学で文学を教えるシュテファン(クリストフ=マリア・ヘルプスト)で、ユーモアを交えた講義は完璧だと自認しているが、海外出張でも同じパターンを繰り返しマンネリは否めない。

 妻のエリザベト(カロリーネ・ペータース)は、パーティーの準備に忙しい。よく言えばマイペース、本当のところは自分勝手で、何ひとつ手伝ってもくれない夫のことを内心腹立たしく思っている。

 そこにエリザベトの弟トーマス(フロリアン・ダーヴィト・フィッツ)が、高級ワイン片手に現れる。ある程度の才覚と抜群の運でビジネスは成功し、羽振りは良い。姉婿との関係は、教養主義上は危うい立ち位置で、微妙なバランス関係にある。 

 もうひとりの客はエリザベトやトーマスと兄弟のようにして育った幼なじみのレネ(ユストゥス・フォン・ドホナーニ)。彼は音楽家でオーケストラの楽団員として活躍している。

 この日の話題の中心になるトーマスの恋人アンナ(ヤニーナ・ウーゼ)は、ご懐妊中にもかかわらず、女優としてオーディションに挑むため遅刻してくる。

 男たちの話題はアンナのお腹にいる子どもの性別から、名づけの本題に突入していく。

 『お名前はアドルフ?』は、2010年にフランスで上演された舞台劇をもとにしている。ひとつの場所=お屋敷に集まって来る人が交わす会話劇として創作された。映画もほぼワンシチュエーションで展開する。

 お気軽な調子で始まった名前当てゲームだったが、”アドルフ“という正解の宣言後は、一瞬にして空気が凍りつく。気まずい雰囲気はさしずめ日本では沈黙に落ち着くのだろうが、議論に発展するのがヨーロッパらしい。終戦後、70数年経とうが、アドルフがヒットラーに直結することは、ドイツ人にとっては当たり前のことなのだ。

 議論は白熱し、次第にあらぬ方向に話題は転換することになる。台詞のやり取りは小気味良く、探り合いの末に、本音を暴露していく醍醐味はスリリングですらある。極上の会話劇で爽快感に浸るのも良いし、ちょっと議論するのも又、オツかも知れない。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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