岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

恋愛を通じて描く映画への憧憬

2020年08月14日

レイニーデイ・イン・ニューヨーク

Photography by Jessica Miglio ©2019 Gravier Productions, Inc.

【出演】ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
【監督・脚本】ウディ・アレン

ロマンチックなセリフと映像、雨の演出…どこを切り取っても“ウディ・アレンの映画”

 新作が待ち遠しい監督がいる。新作の情報に胸が躍り、公開までのワクワクが止まらない。劇場までの足取りもいつになく軽くなる。ウディ・アレン監督もそんな監督の一人である。

 そんなウディ・アレンの新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』はニューヨークにやってきたとある男女のすれ違いをどこまでもロマンチックに描いた監督らしい傑作である。学生新聞の記者として映画監督への取材に夢中なアシュレー(エル・ファニング)と映画は好きだが、アシュレーとのデートを楽しみたいギャツビー(ティモシー・シャラメ)。アシュレーは取材を通じて映画監督や脚本家、俳優の私生活にまで踏み込んでいき、その挙句に人気俳優の恋愛沙汰に巻き込まれることになる。一方のギャツビーは、幼馴染の女の子と再会、理想の映画のワンシーンを語り合い、ロマンチックなムードに浸りながら互いに意識し合っていく。

 同じ地にいながら目的も優先順位も異なるこの2人。映画という夢の世界の現実を知り、映画界が身近な現実になってしまったアシュレーと、夢の世界を夢のままにしておいたギャツビー。現実を見てしまう人と夢を見続ける人に分かれたこの2人に生じた溝がもはや埋まらないのは明白である。つまり、本作は恋愛映画の中に監督の”映画はいつまでも非現実の世界として雲の上に存在し続けるのが幸せなのだ“という映画への価値観をサラリと入れ込んでいる作品なのだ。これはこれまでも自作でたびたび描いてきたものであり、映画に対する深い愛情と映画を職業にしてしまった監督の切実な想いが感じられる。

 ウディ・アレン作品は面倒くさい人たちが小さいことで色々言いながら距離を縮めたり、離れたりするのも特徴のひとつ。本作でもアシュレーは彼氏そっちのけで、若手俳優に夢中になり、ギャツビーはアシュレーに相手にされないことへの愚痴をこぼしまくる始末。しかし、とても人間臭く、自身と重なるところも多いのではないだろうか。それこそが、ウディ・アレンのキャラクター造形。どこまでも現実にいそうなキャラクターなのである。

 『ミッドナイト・イン・パリ』に近い雰囲気を持ちながら、『カイロの紫のバラ』と同様に映画への憧憬を描いたこの作品。終始ロマンチックなセリフと映像、効果的な雨の演出にオシャレなラストシーン。どこを切り取っても“ウディ・アレンの映画”なのである。

語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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語り手:天野 雄喜

中学2年の冬、昔のB級映画を観たことがきっかけで日本映画の虜となり、現在では24時間映画のことを考えながら過ごしています。今も日本映画鑑賞が主ですが外国映画も多少は鑑賞しています。

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