岐阜新聞 映画部

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うすら寒い「日本スゴイ」系の映画になってしまった

2020年07月14日

Fukushima 50(フクシマフィフティ)

© 2020『Fukushima 50』製作委員会

【出演】佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、吉岡里帆、斎藤工、富田靖子、佐野史郎、安田成美
【監督】若松節朗

批判的に観て楽しむのも大いに有り

 東日本大震災による福島第一原発事故から9年。19年から始まった核燃料の取り出し作業は3号機では進んでいるが、1・2号機は先送りされている。原発から出る汚染水の問題は深刻さを増し、22年にはタンクが満杯になる見通しだ。汚染地域への帰還問題も含め、原発事故の収束は全く見えていない。

 本作は日本の未曽有の危機を救った50人の男たちを描いた実話だ。原発内部で起こった地震、津波、電源喪失などの実際を、これ程までにリアルに描いた映画は初めて観た。しかし、彼らの行動を一面的に都合よく扱ったシナリオと、カミカゼ的ヒーローとして描いた演出のせいで、うすら寒い「日本スゴイ」系の映画になってしまった。

 もちろん彼らの行動や覚悟は称賛されるべきであって、いささかの非もない。今の日本があるのも、彼らの職業的責任感と勇敢さがあってこそだ。

 私が腹が立つのは、それらの行為を滅私奉公的に歪曲し、日本に命を捧げましたという美談にすり替えたことだ。特攻隊映画にしてしまった。現場に残るかどうかを問われ「残ります」と口々に言うシーンの演出は、戦意高揚映画としか思えない。彼らにそう言わせたのは、事前に指摘されていた津波対策を怠っていたからで、そこを描いてこそバランスの取れた映画になる。

 東電本店の重役たちの右往左往ぶりと、ヒステリックにわめき散らすばかりの首相。映画に悪役は必要とばかりに無能ぶりをさらけ出しているが、特に首相の扱いは酷すぎる。当時の突飛な行動は決して褒められたわけではないが、悪いイメージを誇張し、現政権に忖度したと勘繰られても仕方ない。

 さらに、世界中の国々が支援してくれたのに、アメリカの「トモダチ作戦」のみを取り上げたのも気色悪いし、桜のイメージに合わせて「復興五輪」到来を謳うエンディングには呆れるほかない。

 やらかし映画ではあるが、批判的に観て楽しむのも大いに有りだ。

語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白さから映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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語り手:ドラゴン美多

中学三年の時に見た「日本沈没」「燃えよドラゴン」のあまりの面白から映画の虜になって四十数年、今も映画から夢と希望と勇気をもらっている、ファッションチェックに忙しい中年のおっさんです。

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