岐阜新聞 映画部

いま、どこかで出会える作品たち

Meet somewhere

戦場の生の証を記録したドキュメンタリー

2020年07月03日

娘は戦場で生まれた

©Channel 4 Television Corporation MMXIX

【出演】ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブ ほか
【監督】ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ

シリア内戦の実情に目を逸らすことは許されない

 2012年、監督のひとりワアド・アルカティーブは、シリア第2の都市アレッポの大学でマーケティングを学ぶ女子学生だった。

 前年の3月、”アラブの春"に誘発されるかたちで始まったシリアの平和的なデモは民主化を求めるものだったが、政権の弾圧は過激さを増し、やがて内戦に発展した。その戦火の鋒がアレッポに到達する。政府の攻撃に学生たちは必死の抵抗を試みる。そのひとりにワアドがいた。彼女はスマートフォンを手に、破壊される街と惨劇にさらされる人々をカメラに収めた。

 2015年9月、ロシアの軍事介入により、シリアの内戦の様相は一変する。反政府派の拠点のアレッポはこれまでにも増して激しい攻撃を受ける。そんな戦場でワアドは、ハムザ・アルカティーブと出会う。医師を志すハムザは傷ついた人々の命を救うため、瓦礫の中を這いずり回るようにして奮闘していた。ふたりは恋に落ち結婚し、ワアドは新しい命を宿すことになる。

 この戦場をとらえたドキュメンタリーは、一気に情勢が悪化していく2015年の終わりから、16年12月のアレッポ陥落までのワアドの日常を記録したものである。

 ハムザたち医療スタッフたちは、爆撃を受けて使い物にならなくなった病院に代わる場所を確保しなければならない。といっても、どこにも無傷の建物はない。それでも崩れかかったビルに応急の補修を施し、野晒しよりまだましな場所を確保する。次々と運ばれてくる負傷者には老若男女の区別はなく、そこが生活の場であることを実感させる。悲嘆と苦悶の叫びを掻き消すのは、無慈悲な政府軍=ロシア軍の爆撃だった。どこにも安全な場所はない。ハムザの同僚の医師たちも犠牲者に変わる。ワアドはそれをひたすらカメラに収めることに没頭する。

 2016年1月1日、ワアドは新しい命を手にする。”サマ”(アラビア語で空)と名づけられた娘がこの世で最初に耳にしたのは、見守る人々の歓喜の声だっただろうか?それとも…。戦場の無情さを痛感し、圧倒的な映像のメッセージは心を揺さぶる。

語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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語り手:覗き見猫

映画にはまって40数年。近頃、めっきり視力が衰えてきましたが、字幕を追う集中力はまだまだ大丈夫です。好きなジャンルは? 人間ドラマ…面白くない半端な回答…甘い青春映画も大好きです。

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